呻吟語 / 内篇・修身・畏るれば則ち敢へて肆ならず
自天子以至於庶人,來有無所畏而不亡者也。天子者,上畏天,下畏民,畏言官於一時,畏史官於後世。百官畏君,群吏畏長吏,百姓畏上,君子畏公議,小人畏刑,子弟畏父兄,卑幼畏家長。畏則不敢肆而德以成,無畏則從其所欲而及於禍。
新字:自天子以至於庶人,来有無所畏而不亡者也。天子者,上畏天,下畏民,畏言官於一時,畏史官於後世。百官畏君,群吏畏長吏,百姓畏上,君子畏公議,小人畏刑,子弟畏父兄,卑幼畏家長。畏則不敢肆而徳以成,無畏則従其所欲而及於禍。
書き下し
天子より以て庶人に至るまで、未だ畏るる所無くして亡びざる者有らざるなり。天子なる者は、上は天を畏れ、下は民を畏れ、言官を一時に畏れ、史官を後世に畏る。百官は君を畏れ、群吏は長吏を畏れ、百姓は上を畏れ、君子は公議を畏れ、小人は刑を畏れ、子弟は父兄を畏れ、卑幼は家長を畏る。畏るれば則ち敢へて肆ならずして德以て成り、畏るる無ければ則ち其の欲する所に從ひて禍に及ぶ。
現代語訳
天子から庶人に至るまで、恐れるものが無くて滅びなかった者はいません。天子は上に天を恐れ、下に民を恐れ、その時の諫官を恐れ、後の世の史官を恐れます。百官は君を恐れ、役人は長官を恐れ、百姓は上を恐れ、君子は世の議論を恐れ、小人は刑を恐れ、子弟は父兄を恐れ、年少者は家長を恐れます。恐れれば勝手にできず徳が成り、恐れが無ければ欲するままに進んで禍に至ります。
解説
恐れを、徳が成るための条件として位置づけます。天子から庶人まで全員に恐れる相手が割り当てられており、誰一人として例外がありません。とくに天子に四つの恐れが挙げられ、後の世の史官まで入っているのが目を引きます。抑えの効く仕組みが上にあるかどうかが、組織の運命を決めるという見方でもあります。抑えが上にあるかどうかが、組織の運命を決めるという見方です。
この章句が説くこと
畏れ抑制天子公議徳
関連する章句
-
呂氏春秋・精通③德なる者は、萬民の宰なり。月なる者は、群陰の本なり。月望なれば則ち蚌蛤實ち、群陰盈つ。月晦なれば則ち蚌蛤虚しく、群陰虧く。夫れ月、天に形われて、群陰、淵に化す。聖人、德を己に行いて、四方咸仁に飭し。
-
論語・衛霊公篇子曰く、由、徳を知る者は鮮なし。
-
論語・為政篇子曰く、之を道びくに政を以てし、之を斉(ととの)うるに刑を以てすれば、民免れて恥無し。之を道びくに徳を以てし、之を斉うるに礼を以てすれば、恥有り且つ格(いた)る。
-
論語・憲問篇南宮适、孔子に問いて曰く、「羿は射を善くし、奡は舟を盪かす。倶に其の死を得ざりき。禹・稷は躬ら稼して天下を有てり。」夫子答えず。南宮适出づ。子曰く、「君子なるかな若き人。徳を尚ぶかな若き人。」
-
論語・為政篇子曰く、政を為すに徳を以てすれば、譬えば北辰其の所に居て衆星之に共(むか)うが如し。
-
『墨子』親士是の故に天地は昭昭たらず、大水は潦潦たらず、大火は燎燎たらず、王徳は堯堯たらず。者は乃ち千人の長なり。其の直きこと矢の如く、其の平らかなること砥の如きは、萬物を覆うに足らず。是の故に谿の狹き者は速やかに涸れ、逝の淺き者は速やかに竭き、墝埆なる者は其の地育まず。王者の淳き澤も、宫中を出でざれば、則ち國に流るる能わず。