呻吟語 / 内篇・修身・惟だ一不善のみ傳はる
不善之名,每成於一事,後有諸長,不能掩也;而惟一不善傳。君子之動可不慎與?
新字:不善之名,毎成於一事,後有諸長,不能掩也;而惟一不善伝。君子之動可不慎与?
書き下し
不善の名は、每に一事に成る。後に諸長有るも、掩ふ能はざるなり。而して惟だ一不善のみ傳はる。君子の動、慎まざる可けんや。
現代語訳
善くないという評判は、たいてい一つの出来事で決まります。その後にいくつ長所があっても、覆い隠すことはできません。そして、たった一つの善くない事だけが語り継がれます。君子の振る舞いは、慎まないでいられるでしょうか。
解説
評判の非対称を突いた一段です。悪評は一件で成立し、後からいくら善行を重ねても消えない。しかも語り継がれるのはその一件だけになる。理不尽に見えますが、人の記憶の実際がそうなのだから慎めと言うのです。前に出てきた、世評には再審が無いという段と対になり、評される側から見た同じ現実を描いています。後から取り返せない一件があると知って動けということです。
この章句が説くこと
悪評一件記憶慎重評判
関連する章句
-
『墨子』貴義子墨子曰く、今、士の身を用うるは、商人の一布を用うるの慎しみに若かざるなり。商人、一布を用うるに、敢えて茍くも繼ぎて讎らず、必ず良き者を擇ぶ。今、士の身を用うるは則ち然らず。意の欲する所は則ち之を為す。厚き者は刑罰に入り、薄き者は毁醜を被る。則ち士の身を用うるは、商人の一布を用うるの慎しみに若かざるなり。
-
『呻吟語』内篇・修身・再び一步を思へば更に好し事の心下に放ち得るに到るも、還た一たび慎むも何ぞ妨げん。言の來たりて口邊に向かふも、再び一步を思へば更に好し。
-
論語・為政篇子張禄を干(もと)むを学ぶ。子曰く、多く聞いて疑わしきを闕(か)き、其の余を慎言すれば、則ち尤(とがめ)寡なし。多く見て殆(あやう)きを闕き、其の余を慎行すれば、則ち悔寡なし。言に尤寡なく、行に悔寡なければ、禄は其の中に在り。
-
論語・述而篇子の慎む所は、斉・戦・疾なり。
-
老子・第15章古の善く士たる者は、微妙玄通、深くして識るべからず。夫れ唯だ識るべからず、故に強いて之が容を為す。豫として冬に川を渉るが若く、猶として四隣を畏るるが若く、儼としてそれ客の若く、渙として氷の将に釈けんとするが若く、敦としてそれ樸の若く、曠としてそれ谷の若く、混としてそれ濁れるが若し。孰か能く濁りて以て之を静かにして徐ろに清まさん。孰か能く安んじて以て久しく之を動かして徐ろに生ぜん。此の道を保つ者は盈つるを欲せず。夫れ唯だ盈たず、故に能く蔽れて新たに成る。
-
孫子・火攻篇故に明主は之を慎み、良将は之を警む。此れ国を安んじ軍を全うするの道なり。