呻吟語 / 内篇・修身・徒らに自己の一勤勞を輸す
予歎曰:「不然。貴公之門奔走如市,彼固厭苦之甚者見於顏面,但渾厚忍不發於聲耳。徒輸自己一勤勞,徒增貴公一厭惡。且入門一揖之後,賓主各無可言,此面愧郝已無髮付處矣。予恐初入仕者犯於眾套而不敢獨異,故發明之。」
新字:予嘆曰:「不然。貴公之門奔走如市,彼固厭苦之甚者見於顏面,但渾厚忍不発於声耳。徒輸自己一勤労,徒增貴公一厭悪。且入門一揖之後,賓主各無可言,此面愧郝已無髪付処矣。予恐初入仕者犯於眾套而不敢独異,故発明之。」
書き下し
予歎じて曰く、「然らず。貴公の門は奔走すること市の如し。彼は固より厭苦の甚だしき者顏面に見る。但だ渾厚にして忍びて聲に發せざるのみ。徒らに自己の一勤勞を輸し、徒らに貴公の一厭惡を增す。且つ門に入り一揖の後、賓主各おの言ふ可き無し。此の面愧郝已に髮を付する處無し。予は初めて仕に入る者の眾套に犯されて敢へて獨り異ならざるを恐る。故に之を發明す」と。
現代語訳
私は嘆いて言いました。そうではありません。身分の高い方の門は市場のように人が押しかけています。相手は心底うんざりした様子を顔に出しているが、ただ人柄が厚いので声に出さないだけです。こちらは無駄に自分の労を差し出し、無駄に相手の嫌悪を一つ増やすだけです。しかも門を入って一礼した後は、客も主も話すことが何もありません。その気まずさは、髪の毛一本置く場所もないほどです。私は、初めて官に就いた者が世の通り相場に流されて、あえて独り違うことができなくなるのを恐れます。だからこれを明らかにしておきます。
解説
前の段の二つの反論に、まとめて答える段です。喜ばれるどころか嫌悪を一つ増やすだけであり、しかも入った後は話すことが何もない。髪の毛一本置く場所もない気まずさという言い方が実感に富んでいます。そして最後に目的を明かし、新任者が通り相場に流されるのを防ぐために書くと言う。自分の癖の弁明ではなく、後進への助言として締めています。
この章句が説くこと
権門無駄気まずさ通り相場後進
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