呻吟語 / 内篇・修身・孝廉の務めて辨ずる所
大行之美,以孝為第一;細行之美,以廉為第一。此二者,君子之所務敦也。然而不辨之申生不如不告之舜,井上之李不如受饋之鵝。此二者,孝廉之所務辨也。
新字:大行之美,以孝為第一;細行之美,以廉為第一。此二者,君子之所務敦也。然而不弁之申生不如不告之舜,井上之李不如受饋之鵝。此二者,孝廉之所務弁也。
書き下し
大行の美は、孝を以て第一と為す。細行の美は、廉を以て第一と為す。此の二つの者は、君子の務めて敦くする所なり。然れども辨ぜざるの申生は告げざるの舜に如かず、井上の李は饋を受くるの鵝に如かず。此の二つの者は、孝廉の務めて辨ずる所なり。
現代語訳
大きな行いの美しさは孝を第一とし、細かい行いの美しさは廉を第一とします。この二つは君子が努めて厚くするところです。しかし弁明せずに死んだ申生は、告げずに事を運んだ舜に及びません。井戸端の李を拾わなかった潔癖は、贈られた鵝鳥を受けた振る舞いに及びません。この二つは、孝と廉について努めて見分けるべきところです。
解説
孝と廉を第一の徳としたうえで、その行きすぎた形に注意を促します。申生は讒言に弁明せず死を選んだ孝子ですが、それより舜のほうが上だとされます。廉についても、拾い食いを拒む潔癖より、贈り物を受ける柔らかさが上に置かれる。徳の名を守ることと、徳を実らせることは別だという判定です。前に出てきた、殺すが仁になる場合があるという段と同じ構えになっています。

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本の中身を見るこの章句が説くこと
孝廉行きすぎ見分け徳
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『囲炉夜話』第六十九則・能く其の難きを為す古の克く孝なる者は多し、獨り虞舜を稱して大孝と為すは、蓋し能く其の難きを為せばなり。 古の才有る者は眾し、獨り周公を稱して美才と為すは、蓋し能く德に本づけばなり。
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『山鹿語類』士道・勵忠孝而して大舜曽子の孝、董永王祥が力を尽し、老萊子黄香が色のまゝに養、仲由王裒が永く慕、郭巨孟宗が誠感、羊伯奇申生が死を致は、是各父母につかへて其誠を尽す。練徳にあらずしては、如何してか如此に及ばんや。されば君父は人倫の大綱にして、我つかふる処誠を不尽ば、君臣父子の道不明。誠を尽さんとならば、徳を練ずしては、其実必薄して、或は害にあたつて変じ、死に臨んで変ず。凡の事大節にのぞみ大変に逢ひ大事を決するに至らずしては、其徳発見する事あらず。世間平生底といへども、徳を本にして其事に処する輩は、其根ざしかはれり。然れども事々たらざれば、その効しあらはれず。非常の変こゝに来て、臣とし子として、明白に其誠をつくさんことは、徳以て正しからずしては不可叶事也。
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『君子訓』巻之下是始て国を得給ふ先公の心にて、君子業を創め統を垂れて継ぐべきを為すの意なり。其子孫たる人は、其先祖の大なる勲労を以て国を得給ふことの難きをおもひ、其先祖を尊び、其志を継ぎ、其法を守りて永く国土を保ち、人民を治め給はば、是其先祖の志にかなひて、諸侯の孝行是より大なるはなし。もし先祖の国を得給ふことの難き事を思はず、我が身何の辛労もなく、居ながら国を領して、其富貴安楽を受け、恣に驕り、酒宴遊楽を事とし、剰へ我が才智に誇り、先祖を侮り、其定め置き給ひし家法を破り、又国民を苦め、政法を猥にして、終に其臣民に背かれ、国土を失ふに至るは、諸侯の不孝是より大なるはなし。此思ふと思はざるとの二は、国家の治乱存亡の機なり。諸侯の子孫たる人、此二の機を察して、常に慎みて徳を修め孝を行ひ給はば、其後栄永く伝はりて、令名限りなかるべし。
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『徂徠先生答問書』卷中其内にも孝弟を専らと相見え候は、幼少なる人のいまだ親の家内に居候内は、君臣朋友の上はさしあたらぬ事故に候。孝弟の内に孝を第一といたし候は、兄弟なき人は候へども父母なき人は無之故に候。孝弟の教は幼少なる人にも入やすく。是よりしては忠信五倫の道もをのづからに得候事故、先王の教にも殊に専一に被成候事に候。扨是を中庸の徳行と名付候事は、いかなる愚なる人も、又才智すぐれ候人も。たれにてもなり申候事にて、別に高妙なる儀にて無御座候故名付候事に候。
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『徂徠先生答問書』卷中一孝行の儀御尋に候。成程聖人の教には孝弟忠信を中庸の徳行と名付け、是を貴賤によらず人たる者の勤め行ふべき事といたし申候。君子の道も、是を土台にいたし不申候得ば、高きにのぼるに楷梯なきがごとくに御座候。舜の契を司徒の官になされ、五倫を教へしめ給ふも、孔子の民に中庸の徳なき事を御なげき被成候も同意にて御座候。孝は父母によくつかへ候事、弟は兄長によくつかへ候事、忠は君につかゆるにても、又たれにても、人のためになし候事をば我身の事のごとくに如在なく身にかけ申候事に候。信と申候は、朋友其外あまねくの人にまじはり申候には言語を慎み偽り違候事なきやうに致し候を申候。是にて父母兄弟君臣朋友の道こもり申候故、五倫と申候も、中庸と申候も、孝弟忠信と申候も、ひとつ事にて御座候。
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『翁問答』上卷之本体充曰孝行に五等の差別あるは如何なる故にて候や。師の曰五等は人間五段の位なり、天子一等、諸侯一等、卿太夫一等、士一等、庶人一等、総て五等なり、天子は天下を知ろしめす御門の御位なり、諸侯は国を治る大名の位なり、卿太夫は天子諸侯の下知を受けて国天下の政をする位なり、士は卿太夫に付添て、政の諸役を勤むる位なり、物造りを農と云職人を工と云、あき人を商と云、此農工商の三つはおしなへて庶人の位なり、孝徳は同一体なれ共位に由て事の大小高下ある故に、其位の分際相応の道理を、後世昧者の為めに分弁を説き明め給こと、譬へば孝徳は大海の如し、五等の位は器の如し、器を海へ入て水を汲むに、大小方円の模様はかはれ共、水は同じ水なる如し、昔し聖人の御代には、人間の位五等の外は無き故に、五等の孝を発明し給ふ。