呻吟語 / 内篇・修身・善を為すは飲食衣服の如し
善之當為,如飲食衣服然,乃吾人日用常行事也。人未聞有以禍福廢衣食者,而為善則以禍福為行止;未聞有以毀譽廢衣食者,而為善則以毀譽為行止。惟為善心不真誠之故耳。果真、果誠,尚有甘死饑寒而樂於趨善者。
新字:善之当為,如飲食衣服然,乃吾人日用常行事也。人未聞有以禍福廃衣食者,而為善則以禍福為行止;未聞有以毀誉廃衣食者,而為善則以毀誉為行止。惟為善心不真誠之故耳。果真、果誠,尚有甘死饑寒而楽於趨善者。
書き下し
善の當に為すべきは、飲食衣服の然るが如し。乃ち吾人日用常行の事なり。人未だ禍福を以て衣食を廢する者有るを聞かず。而るに善を為すは則ち禍福を以て行止と為す。未だ毀譽を以て衣食を廢する者有るを聞かず。而るに善を為すは則ち毀譽を以て行止と為す。惟だ善を為すの心真誠ならざるの故なるのみ。果たして真、果たして誠ならば、尚ほ饑寒に死するを甘んじて善に趨くを樂しむ者有り。
現代語訳
善をなすべきことは、食べることや着ることと同じです。日々の当たり前の営みです。禍か福かを理由に食事や衣服をやめる人は聞いたことがありません。それなのに善をなすことは、禍福を理由にするかしないかを決めています。褒められるか貶されるかを理由に食事や衣服をやめる人も聞いたことがありません。それなのに善をなすことは、毀誉を理由にするかしないかを決めています。ただ善をなす心が本物でないからです。本当に真であり誠であれば、飢えと寒さで死ぬことを甘んじて受けてでも、善へ向かうのを楽しむ者がいます。
解説
善行を食事や衣服と同じ日常の営みに引き下ろす一段です。誰も損得や評判を理由に食事をやめないのに、善だけは条件つきになっている。その落差を突いて、心が本物でない証拠だと判定します。食べることに理由が要らないように、善にも理由が要らないはずだという筋立てで、動機を論じる代わりに日常との比較で示したのが巧みです。飢え死にしてでも善に向かう者がいる、という最後の一句が、理屈を超えた実例として置かれています。
この章句が説くこと
善行日常条件毀誉誠
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