呻吟語 / 内篇・修身・己を潔くして人を病ましめず
盜嫂之誣直不疑,撾婦翁之誣第五倫,皆二子之幸也。何者?誣其所無。無近似之跡也,雖不辯而久則自明矣。或曰:「使二子有嫂、有婦翁,亦當辯否?」曰:「嫌疑之跡,君子安得不辯?『予所否者,天厭之,天厭之。』若付之無言,是與馬償金之類也,君子之所惡也。故君子不潔己以病人,亦不自污以徇世。」
新字:盗嫂之誣直不疑,撾婦翁之誣第五倫,皆二子之幸也。何者?誣其所無。無近似之跡也,雖不弁而久則自明矣。或曰:「使二子有嫂、有婦翁,亦当弁否?」曰:「嫌疑之跡,君子安得不弁?『予所否者,天厭之,天厭之。』若付之無言,是与馬償金之類也,君子之所悪也。故君子不潔己以病人,亦不自污以徇世。」
書き下し
嫂を盜むの誣は直不疑、婦翁を撾つの誣は第五倫、皆な二子の幸ひなり。何となれば、其の無き所を誣ればなり。或るひと曰く、「二子をして嫂有り婦翁有らしめば、亦た當に辯ずべきや否や」と。曰く、「嫌疑の跡は、君子安くんぞ辯ぜざるを得んや。若し之を無言に付さば、是れ馬に金を償ふの類なり、君子の惡む所なり。故に君子は己を潔くして人を病ましめず、亦た自ら污して世に徇はず」と。
現代語訳
兄嫁と通じたと讒言された直不疑、妻の父を殴ったと讒言された第五倫。どちらもこの二人にとっては幸いでした。なぜなら、存在しないものについての讒言だったからです。ある人が問いました。もしこの二人に兄嫁がいて妻の父がいたら、やはり弁明すべきでしょうか。答えて言う。疑わしい跡があるなら、君子がどうして弁明せずにいられましょう。黙って済ませるのは、馬の代金を黙って払うような類で、君子の憎むところです。だから君子は自分を潔くして人を苦しめることもせず、自分を汚して世に合わせることもしません。
解説
讒言に黙って耐えるのが君子だという通念に、但し書きをつけます。まったく身に覚えが無いなら放っておけばいずれ晴れる。しかし疑われる跡があるなら弁明せよ、と。黙るのは美徳ではなく、事を曖昧にすることだという判断です。最後の二句が要点で、潔癖で人を追い詰めるのも、身を汚して世に合わせるのも、どちらも取らないという中間の立ち位置を示しています。
この章句が説くこと
讒言弁明沈黙疑い潔癖
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