呻吟語 / 内篇・談道・天理もて天理を擾害す
人欲擾害天理,眾人都曉得;天理擾害天理,雖君子亦迷,況在眾人!而今只說慈悲是仁,謙恭是禮,不取是廉,慷慨是義,果敢是勇,然諾是信。這個念頭真實發出,難說不是天理,卻是大中至正天理被他擾害,正是執一賊道。舉世所謂君子者,都是這裡看不破,故曰「道之不明」也。
新字:人欲擾害天理,眾人都暁得;天理擾害天理,雖君子亦迷,況在眾人!而今只説慈悲是仁,謙恭是礼,不取是廉,慷慨是義,果敢是勇,然諾是信。這個念頭真実発出,難説不是天理,却是大中至正天理被他擾害,正是執一賊道。舉世所謂君子者,都是這裡看不破,故曰「道之不明」也。
書き下し
人欲の天理を擾害するは、眾人都て曉り得たり。天理の天理を擾害するは、君子と雖も亦た迷ふ。況んや眾人に在りてをや。而今只だ說く、慈悲は是れ仁、謙恭は是れ禮、不取は是れ廉、慷慨は是れ義、果敢は是れ勇、然諾は是れ信と。這個の念頭真實に發出せば、是れ天理に非ずと說き難し。卻って是れ大中至正の天理彼が擾害する所と為る。正に是れ一を執りて道を賊ふなり。舉世の所謂君子なる者は、都て是れ這裡に看破せず。故に「道の明らかならざる」と曰ふなり。
現代語訳
欲が天理を乱すことは、誰にでも分かります。しかし天理が天理を乱すことは、君子でさえ迷います。まして普通の人ならなおさらです。今の人は、あわれみが仁だ、へりくだりが礼だ、受け取らないのが廉だ、意気に感じるのが義だ、思い切りのよさが勇だ、約束を守るのが信だ、と言います。この思いが本心から出ているのなら、天理でないとは言いにくい。ところがその一つが、大きく正しい天理のほうを乱してしまう。これこそ一つに執着して道を損なうということです。世間で君子と呼ばれる人は、みなここを見破れません。だから道が明らかにならないと言うのです。
解説
悪が善を壊すのではなく、善が善を壊す場合がある、という怖い指摘です。あわれみも、へりくだりも、約束を守ることも、それ自体は正しい。しかしその一つに固執すると、より大きな正しさを潰してしまう。呂坤はこれを一を執りて道を賊うと呼びます。善意の人が引き起こす害はここから生まれるので、自分の美徳こそ点検せよという、最も難しい宿題を出した一段です。
この章句が説くこと
天理善意偏り美徳執着
関連する章句
-
『呻吟語』内篇・談道・七情は總じて是れ個の欲七情は總じて是れ個の欲なり、只だ其の正を得了らば、都て是れ天理なり。五性は總じて是れ個の仁なり、只だ不仁なり了らば、都て是れ人欲なり。
-
『呻吟語』内篇・談道・此の五賊は、道を破り正を亂す私恩煦感は、仁の賊なり。直往輕擔は、義の賊なり。足恭偽態は、禮の賊なり。苛察岐疑は、智の賊なり。苟約固守は、信の賊なり。此の五賊なる者は、道を破り正を亂す、聖門之を斥く。後世の儒者は往往にして之を稱して以て世を訓ふ、無識なるかな。
-
『呻吟語』内篇・談道・殺すを仁と為すこと有り殺すを之れ仁と為し、生かすを不仁と為す者有り。取るを義と為し、與ふるを不義と為す者有り。卑しむを禮と為し、尊ぶを非禮と為す者有り。知らざるを智と為し、之を知るを不智と為す者有り。言に違ふを信と為し、言を踐むを非信と為す者有り。
-
『呻吟語』外篇・品藻・其の賊道たること均し今の人を論ずる者は、辭受に於て道義を論ぜず、只だ辭するを以て是と為す。故に辭は寧ろ矯廉にして、貪愛の嫌を避く。取與に於て道義を論ぜず、只だ與ふるを以て是と為す。故に與ふるは寧ろ惠を傷りて、吝嗇の嫌を避く。義は當に分を明らかにすべきに、人皆な其の諛を病みて倨傲矜陵を以て節概と為す。禮は當に體を持すべきに、人皆な其の倨を病みて過禮足恭を以て盛德と為す。惟だ儉のみ是れ取る者は、禮に當に豐かなるべき有るを辯ぜず。惟だ默のみ是れ貴ぶ者は、事に當に言ふべき有るを論ぜず。
-
『呻吟語』内篇・修身・天理を師保の如く敬す天理は本と自ら廉退す、而るに吾又た之に處するに疏を以てす。人欲は本と善く夤緣す、而るに吾又た之に狎るるに親を以てす。小人は方寸に滿ちて君子は千里の外に在り。身を修めんと欲するも、得んや。故に學者は天理と處するに、始めは則ち之を敬すること師保の如く、既にして之に親しむこと骨肉の如く、久しければ則ち渾化して一體と為る。人欲は間に乘じて入らんと欲すと雖も、從る無からん。
-
『呻吟語』内篇・應務・五に主有れば則ち事成らざる無し意見の同じからざればなり。今仁者・義者・禮者・智者・信者の五人有りて一事を共にせば、五相濟せば則ち事成らざる無く、五に主有れば則ち事敗れざる無し。仁者は寬を欲し、義者は嚴を欲し、智者は巧を欲し、信者は實を欲し、禮者は文を欲す。事胡ぞ以て成らんや。此れ他無し、自ら是とするの心勝ちて、相持するの勢均しければなり。往事を歷觀するに、每に意見を以て相爭ひ、人の國家を亡ぼすに至り、禍變を釀成して顧みざる有り。君子の罪大なるかな。