呻吟語 / 内篇・談道・寒灰を撥り、淨蠟を嚼む
靜中真味至淡至冷,及應事接物時,自有一段不冷不淡天趣。只是眾人習染世味十分濃豔,便看得他冷淡。然冷而難親,淡而可厭,原不是真味,是謂撥寒灰、嚼淨蠟。
新字:静中真味至淡至冷,及応事接物時,自有一段不冷不淡天趣。只是眾人習染世味十分濃豔,便看得他冷淡。然冷而難親,淡而可厭,原不是真味,是謂撥寒灰、嚼浄蠟。
書き下し
靜中の真味は至淡至冷なり。事に應じ物に接する時に及びては、自ら一段の冷ならず淡ならざる天趣有り。只だ是れ眾人は世味の十分濃豔なるに習染す、便ち他を看得て冷淡とす。然れども冷にして親しみ難く、淡にして厭ふ可きは、原と是れ真味に非ず。是れを寒灰を撥り、淨蠟を嚼むと謂ふ。
現代語訳
静けさの中の本当の味わいは、この上なく淡くこの上なく冷たい。しかし事に応じ物に接するときになれば、自然と冷たくも淡くもない天然の趣があります。ただ多くの人は世間の味の濃く艶やかなものに慣れているので、それを冷たく淡いと見てしまうのです。しかし冷たくて親しみにくく、淡くて厭わしいものは、もともと本当の味ではありません。これを冷えた灰をかき回し、味のない蠟を噛むと言います。
解説
静けさの味わいが、冷たさと誤解されることが説明されます。本当は事に応じるときに天然の趣が出るのに、濃い味に慣れた人には冷淡に見える、と。そして偽物との区別が示されます。冷たくて親しみにくく、淡くて厭わしいものは本当の味ではない。冷えた灰と味のない蠟という比喩が、退屈な禁欲と本物の淡さを分ける目印になっています。
この章句が説くこと
静味淡冷誤解天趣寒灰
関連する章句
-
『呻吟語』内篇・存心・天地間の真滋味は、惟だ靜者のみ嘗め得出だす天地間の真滋味は、惟だ靜者のみ能く嘗め得出だす。天地間の真機括は、惟だ靜者のみ能く看得透す。天地間の真情景は、惟だ靜者のみ能く題得破る。熱鬧の人と作り、孟浪の語を說くも、豈に一得無からんや。皆偶合なるのみ。
-
『呻吟語』内篇・談道・羶に依り腥に附く底の人冷淡の中に無限の受用の處有り。都て炎熱に戀戀とし、死に抵るまで悟らず。既に悟るも回頭するを知らず、既に回頭するも卻って又た羨慕す。此れは是れ一種の羶に依り腥に附く底の人なり。切に與に真の滋味を談ずる莫かれ。
-
『呻吟語』内篇・談道・淡裡に天真を見る心は淡裡に天真を見る、嚼み破りて後に許多の滋味あり。學は淵中に向かひて理趣を尋ぬ、湧き出で來たりて無限の波瀾あり。
-
『呻吟語』内篇・談道・舉世塵俗の中に、另に一種の意味を識る舉世塵俗の中に在りて、另に一種の意味を識り、又輕々しく鮮く味を知る者と嘗めざれば、才めて是れ真趣なり。此れを守れば便ち是れ至寶なり。
-
『呻吟語』内篇・性命・真機真味は涵蓄を要す真機・真味は涵蓄を要す、點破するを休めよ。其の妙は窮まり無く、言喩す可からず。所以に聖人は言無し。一たび口頰を犯さば、年を窮むるも說き盡くさず、又離披澆漓として、一些の咀嚼する處無からん。
-
『呻吟語』内篇・存心・沉靜は、緘默の謂ひに非ず沉靜は、緘默の謂ひに非ざるなり。意淵涵にして態閑正なる、此れを真の沉靜と謂ふ。終日言語し、或いは千軍萬馬の中に相攻擊し、或いは稠人廣眾の中に繁劇に應ずと雖も、其の沉靜為るを害せず、神定まるが故なり。一たび飛揚動擾の意有れば、端坐して終日、寂として一語無しと雖も、色貌自ら浮かぶ。或いは意飛揚動擾せずと雖も、昏昏として睡らんと欲するは、皆沉靜と謂ふを得ず。真の沉靜底は自ら是れ惺憽にして、一段の全副の精神を裡に包む。