呻吟語 / 内篇・倫理・家長は、一家の君なり
家長,一家之君也。上焉者使人歡愛而敬重之,次則使人有所嚴憚,故曰嚴君。下則使人慢,下則使人陵,最下則使人恨。使人慢,未有不亂者;使人陵,未有不敗者;使人恨,未有不亡者。嗚呼!齊家豈小故哉?今之人皆以治生為急,而齊家之道不講久矣!
新字:家長,一家之君也。上焉者使人歓愛而敬重之,次則使人有所厳憚,故曰厳君。下則使人慢,下則使人陵,最下則使人恨。使人慢,未有不乱者;使人陵,未有不敗者;使人恨,未有不亡者。嗚呼!斉家豈小故哉?今之人皆以治生為急,而斉家之道不講久矣!
書き下し
家長は、一家の君なり。上なる者は人をして歡愛して之を敬重せしむ。次は則ち人をして嚴憚する所有らしむ、故に嚴君と曰ふ。下は則ち人をして慢らしめ、下は則ち人をして陵がしめ、最下は則ち人をして恨ましむ。人をして慢らしむれば、未だ亂れざる者有らず。人をして陵がしむれば、未だ敗れざる者有らず。人をして恨ましむれば、未だ亡びざる者有らず。嗚呼、家を齊ふること豈に小故ならんや。今の人は皆治生を以て急と為して、家を齊ふるの道を講ぜざること久し。
現代語訳
家長は一家の君主です。上の者は、人に喜び愛させながら敬い重んじさせます。その次は、人に恐れ憚るところを持たせます。だから厳しい君と言うのです。下になると人があなどり、さらに下になると人が踏み越え、最下になると人が恨みます。人にあなどられれば、乱れなかった例がありません。人に踏み越えられれば、敗れなかった例がありません。人に恨まれれば、亡びなかった例がありません。ああ、家を斉えるのが小さな事でしょうか。今の人はみな生計を急務として、家を斉える道を論じなくなって久しい。
解説
家長の格が五段に分けられます。喜び愛されて敬われる、恐れ憚られる、あなどられる、踏み越えられる、恨まれる。最上が愛と敬の両立であり、厳しさは二番目にすぎません。そして下三段には結末が添えられる。乱れ、敗れ、亡びる。最後に時世が嘆かれます。皆が生計を急いで、家を斉える道を語らなくなった、と。厳しさは最上ではなく二番目である、という順位づけが効いています。
この章句が説くこと
家長五段敬重慢恨
関連する章句
-
『呻吟語』内篇・修身・家長は敬せしめ愛せしむ家長人をして敬せしむる能はざれば、則ち教令行はれず。人をして愛せしむる能はざれば、則ち心志孚あらず。
-
『呻吟語』内篇・倫理・其の要を得るは尊長の自ら脩むるに在り一家の中、尊長を看得て尊ければ、則ち家治まる。若し尊長を看得て尊からずんば、如何ぞ他を齊へん。其の要を得るは尊長の自ら脩むるに在り。
-
『呻吟語』内篇・倫理・家法は威如たるを要す齊は刀を以て物を切り、參差なる者をして一致に就かしむるなり。家人は恩の勝つの地、情多くして義少なく、私は易くして公は難し。若し人人其の欲を遂げば、勢ひ將に極まり無からんとす。故に古人は父母を以て嚴君と為し、家法は威如たるを要す。蓋し症に對するの治なり。
-
『呻吟語』内篇・倫理・慎言の地は、惟だ家庭を要と為す慎言の地は、惟だ家庭を要と為す。應に言を慎むべきの人は、惟だ妻子・僕隸を要と為す。此れ理亂の原にして禍福の本なり。人往往にして之を忽にす、悲しいかな。
-
『呻吟語』内篇・倫理・家人の害は卑幼の情を恣にするより大なし家人の害は、卑幼各〻其の無厭の情を恣にして、上の人其の意に阿りて之を禁ぜざるより大なるは莫し。猶ほ婢子言を造りて婦人之を悅び、婦人附會して丈夫之を信ずるより大なるは莫し。此の二害を禁じて家和睦せざる者は鮮し。
-
『呻吟語』外篇・治道・愛する所の者をして恩を知りて敢へて肆ならざらしむ驕慣の極みは、父も子を制する能はず、君も臣を制する能はず、夫も妻を制する能はず、身も自ら制する能はず。死を視ること飴の如くんば、何の威か能く加へん。恩を視ること玩の如くんば、何の惠か能く益さん。禍せずんば止まず。故に君子は情盛んなるも敢へて紀綱を廢せず。兢兢然として愛する所の者をして恩を知りて敢へて肆ならざらしむ。之を生かす所以なり、之を全うする所以なり。