呻吟語 / 内篇・倫理・古の遠別は、授受親しまざるに止まる
男女遠別,雖父女、母子、兄妹、姊弟,亦有別嫌明微之禮,故男女八歲不同食。子婦事舅姑,禮也,本不遠別,而世俗最嚴翁婦之禮,影響間,即疾趨而藏匿之;其次夫兄弟婦相避。此外,一無所避,已亂綱常。乃至叔嫂、姊夫、妻妹、妻弟之妻互相嘲謔以為常,不幾於夷風乎?不知,古者遠別,止於授受不親,非避匿之謂。而男女所包甚廣,自妻妾外,皆當遠授受之嫌。愛禮者,不可不明辨也!
新字:男女遠別,雖父女、母子、兄妹、姊弟,亦有別嫌明微之礼,故男女八歳不同食。子婦事舅姑,礼也,本不遠別,而世俗最厳翁婦之礼,影響間,即疾趨而蔵匿之;其次夫兄弟婦相避。此外,一無所避,已乱綱常。乃至叔嫂、姊夫、妻妹、妻弟之妻互相嘲謔以為常,不幾於夷風乎?不知,古者遠別,止於授受不親,非避匿之謂。而男女所包甚広,自妻妾外,皆当遠授受之嫌。愛礼者,不可不明弁也!
書き下し
男女遠別は、父女・母子・兄妹・姊弟と雖も、亦た嫌を別ち微を明らかにするの禮有り。故に男女八歲にして食を同じくせず。子婦の舅姑に事ふるは、禮なり、本と遠別せず。而るに世俗は最も翁婦の禮を嚴にし、影響の間にも、即ち疾く趨りて之を藏匿す。其の次は夫の兄弟と婦と相避く。此の外、一も避くる所無きは、已に綱常を亂す。乃ち叔嫂・姊夫・妻妹・妻弟の妻に至るまで互ひに嘲謔して以て常と為すは、夷風に幾からずや。知らず、古の遠別は、授受親しまざるに止まる、避匿の謂ひに非ず。而して男女の包む所甚だ廣し。妻妾より外は、皆當に授受の嫌を遠ざくべし。禮を愛する者は、明辨せざる可からず。
現代語訳
男女が遠ざかり分かれることは、父と娘、母と息子、兄と妹、姉と弟であっても、嫌疑を分け微細を明らかにする礼があります。ですから男女は八歳になれば食事をともにしません。嫁が舅姑に仕えるのは礼であって、もともと遠ざかるものではありません。ところが世間では舅と嫁の礼を最も厳しくし、気配を感じただけで急いで走って隠れます。その次に夫の兄弟と妻が避け合います。それ以外に何も避けないのは、すでに人倫の綱を乱しています。しかも夫の弟と兄嫁、姉の夫、妻の妹、妻の弟の妻とまで互いにふざけ合うのを常とするのは、野蛮な風習に近いのではないでしょうか。知るべきです。昔の遠ざかりとは、物を直接手渡ししないことに留まり、避けて隠れることではありません。しかも男女という言葉が包む範囲は広い。妻妾以外は、みな手渡しの嫌疑を遠ざけるべきです。礼を愛する者は、はっきり見分けなければなりません。
解説

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『呻吟語』内篇・倫理・別有るは先づ夫婦より始まる宇宙内の大情種は、男女其の第一に居る。聖王も裁割して之を矯拂せんと欲せず、亦た裁割矯拂する能はざるなり。故に之を通ずるに已む可からざるの情を以てし、之を約するに犯す可からざるの禮を以てし、之を繩するに必ず赦さざるの法を以てす。之を縱にして相安んじ相久しからしむるなり。聖人も亦た是くのごとく亟ならず、故に五倫中の父子・君臣・兄弟・朋友は、篤くして又篤く、厚くして又厚く、惟だ情意の薄きを恐る。惟だ男女一倫のみ、是れ聖人の苦心する處なり。故に別有るは先づ夫婦より始まる。本と之に與ふるに別無きを以てして、又之に教ふるに別有るを以てす。況んや別有る者にして肯へて之を混ぜしめんや。聖人の意を用ふること深し。是れ死生の衢にして大亂の首なり、以て慎まざる可からざるなり。
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礼記・内則外内は井を共にせず、湢浴(ひょくよく)を共にせず、寝席を通ぜず、乞仮(きっか)を通ぜず、男女は衣裳を通ぜず、内言は出でず、外言は入らず。男子内に入れば、嘯(うそぶ)かず指ささず、夜行くには燭を以てし、燭無ければ則ち止む。女子門を出づれば、必ず其の面を擁蔽(ようへい)し、夜行くには燭を以てし、燭無ければ則ち止む。道路には、男子は右に由り、女子は左に由る。子婦の孝なる者、敬なる者は、父母舅姑の命に、逆らうこと勿く怠ること勿し。若しこれに飲食せしむれば、耆(この)まずと雖も、必ず嘗めて待つ。これに衣服を加うれば、欲せずと雖も、必ず服して待つ。これに事を加え、人これに待(か)わらんとすれば、己弗欲すと雖も、姑(しばら)くこれに与え、而して姑くこれを使わしめ、而して後にこれを復す。子婦に勤労の事有れば、甚だこれを愛すと雖も、姑くこれを縦(ほしいまま)にし、而して寧(むし)ろ数(しばしば)これを休ましむ。子婦未だ孝ならず未だ敬ならざれば、庸(もち)いて疾怨すること勿く、姑くこれを教えよ。若し教うべからずして、而る後にこれを怒れ。怒るべからざれば、子は放ち婦は出だして、而して礼を表わさず。父母に過ち有れば、気を下し色を怡(やわら)げ、声を柔らげて以て諫む。諫め若し入れられずんば、敬を起こし孝を起こし、説(よろこ)べば則ち復た諫む。説ばざるも、其の罪を郷党州閭(きょうとうしゅうりょ)に得んよりは、寧ろ孰(つまび)らかに諫めよ。父母怒りて説ばず、而してこれを撻(う)ちて血を流すも、敢えて疾怨せず、敬を起こし孝を起こす。父母に婢子若しくは庶子・庶孫有りて、甚だこれを愛すれば、父母没すと雖も、身を没するまでこれを敬して衰えず。子に二妾有り、父母一人を愛し、子一人を愛すれば、衣服飲食由(よ)り、執事由り、敢えて父母の愛する所に視(なら)うこと毋かれ、父母没すと雖も衰えず。子甚だ其の妻を宜しとするも、父母説ばざれば、出だす。子其の妻を宜しとせざるも、父母曰く、「是れ善く我に事う」と、子は夫婦の礼を行い、身を没するまで衰えず。
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礼記・曲礼上長者に侍坐するには、屨(くつ)は堂に上げず、屨を解くに敢えて階に当たらず。屨に就くには、跪きてこれを挙げ、側に屏(しりぞ)く。長者に郷(む)かいて屨く。跪きて屨を遷し、俯して屨を納る。 離坐・離立には、往きて参(まじ)わること毋かれ。離立する者は、中間を出でず。男女は雑坐せず。椸(い)・枷(か)を同じくせず。巾・櫛を同じくせず、親授せず。嫂叔(そうしゅく)は問を通ぜず、諸母は裳を漱(あら)わしめず。外言は梱(こん)に入らず、内言は梱を出でず。女子許嫁すれば、纓(えい)す。大故有るに非ざれば、其の門に入らず。姑・姉・妹・女子子、已に嫁して反(かえ)れば、兄弟はともに席を同じくして坐せず、ともに器を同じくして食わず。父子は席を同じくせず。男女は行媒(こうばい)有るに非ざれば、相名を知らず。幣を受くるに非ざれば、交わらず親しまず。故に日月以て君に告げ、斉戒して以て鬼神に告げ、酒食を為(つく)りて以て郷党僚友を召(まね)き、以て其の別を厚くするなり。妻を取るに同姓を取らず。故に妾を買うに其の姓を知らざれば則ちこれを卜す。寡婦の子は、見(あらわ)るること有るに非ざれば、ともに友と為らず。
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礼記・内則昧爽にして朝し、慈(いつく)しむに旨甘(しかん)を以てす。日出でて退き、各々其の事に従い、日入りて夕(せき)し、慈しむに旨甘を以てす。父母舅姑将に坐せんとすれば、席を奉じて何(いず)くにか郷(む)かわんと請う。将に衽(しん)せんとすれば、長者席を奉じて何くにか趾(あし)せんと請う。少者は床を執りて与(とも)に坐し、御者は几を挙げ、席と簟とを斂め、衾を県(か)け枕を篋(おさ)め、簟を斂めてこれを襡(ふくろ)にす。父母舅姑の衣衾簟席枕几は伝えず、杖屨は祇(つつし)みてこれを敬し、敢えて近づくこと勿し。敦牟卮匜(たいぼうしい)は、餕(しゅん)に非ざれば敢えて用うる莫し。恒の食飲とともに、餕に非ざれば、敢えてこれを飲食する莫し。父母在(いま)せば、朝夕の恒食に、子婦佐けて餕す。既に食すれば恒に餕す。父没して母存すれば、冢子(ちょうし)食に御し、群子婦佐けて餕すること初めの如し。旨甘柔滑は、孺子餕す。父母舅姑の所に在りて、これに命ずること有れば、応じて唯(い)し敬して対う。進退周旋は慎み斉(ととの)え、升降出入は揖游(ゆうゆう)し、敢えて噦噫(えつあい)・嚔咳(ていがい)・欠伸(けんしん)・跛倚(はい)・睇視(ていし)せず、敢えて唾洟(だい)せず。寒くとも敢えて襲(かさ)ねず、癢くとも敢えて搔かず。敬事有らざれば、敢えて袒裼(たんせき)せず、渉らざれば撅(かか)げず、褻衣衾は裏を見さず。父母の唾洟は見さず。冠帯垢づけば、灰を和して漱(あら)わんことを請う。衣裳垢づけば、灰を和して浣(あら)わんことを請う。衣裳綻裂すれば、箴(はり)を紉(とお)して補綴せんことを請う。五日には、則ち湯を燂(あたた)めて浴せんことを請い、三日には沐を具う。其の間、面垢づけば、潘(はん)を燂めて靧(かい)せんことを請い、足垢づけば、湯を燂めて洗わんことを請う。少は長に事え、賤は貴に事え、共に時(これ)に帥(したが)う。男は内を言わず、女は外を言わず。祭に非ず喪に非ざれば、相器を授けず。其の相授くるには、則ち女は受くるに篚(ひ)を以てす。其の篚無ければ則ち皆坐してこれを奠(お)きて後にこれを取る。
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『山鹿語類』士道・愼言語凡そ如此の詞、其品一様にあらず。唯詳に究明するにありぬべし。君父臣子の言こゝに正しき時は、兄弟夫婦朋友の言皆順なるべし。自我父兄云ときは、君に比して是を尊敬し、人に対して云ときは謙て是愚父愚兄と云。父兄の子弟を称するも皆同じ。唯毋不敬と云の心を本として、其地を考、其時をはかり、相対するの人物事宜を以て軽重せしむべし。況や男女の詞、其礼を以てせざれば、男にして女の詞をまなび、女にして男の詞をなす。各不得其処也。故に男は不言内、女は不言外の戒を守るべし。言と云へども、思より出でざることなし。尤可慎也。
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『呻吟語』内篇・倫理・惟だ子孝にして夫端ならば繼母の虐、嫡妻の妒は、古今以て恨みと為す所なり。而るに前子の不孝、丈夫の不端は、則ち捨然として問はず。世情の偏なること、久し。非母の跡を懷ひて似に因りて嫌を生じ、恃父の名を借りて端無く謗を造り、怨讟忤逆して、父も亦た誣を被る者、世に豈に無からんや。淫狎の性を恣にして恩は綠絲に重く、城社の威を挾みて侮は黃裡に及ぶ。『谷風』『栢舟』、妻も亦た所を失ふ者、世に豈に無からんや。惟だ子孝にして夫端ならば、然る後に繼母嫡妻は姻族に辭無し。官に居る者知らざる可からず。