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呻吟語 / 序・子既に之を志せり、盍ぞ以て人に公にせざる

三十年來,所志《呻吟語》,凡若干卷,攜以自藥。司農大夫劉景澤,攝心繕性,平生無所呻吟,予甚愛之。頃共事鴈門,各談所苦,予出《呻吟語》眎景澤。景澤曰:「吾亦有所呻吟而未之志也。吾人之病,大都相同。子既志之矣,盍以公人?蓋三益焉:醫病者,見子呻吟,起將死病;同病者,見子呻吟,醫各有病;未病者,見子呻吟,謹未然病。是子以一身示懲於天下,而所壽者眾也。既子不瘉,能以瘉人,不既多乎?」余矍然曰:「病語狂,又以其狂者惑人聞聽,可乎?」因擇其狂而未甚者存之。

新字:三十年来,所志《呻吟語》,凡若干巻,攜以自薬。司農大夫劉景沢,摂心繕性,平生無所呻吟,予甚愛之。頃共事鴈門,各談所苦,予出《呻吟語》眎景沢。景沢曰:「吾亦有所呻吟而未之志也。吾人之病,大都相同。子既志之矣,盍以公人?蓋三益焉:医病者,見子呻吟,起将死病;同病者,見子呻吟,医各有病;未病者,見子呻吟,謹未然病。是子以一身示懲於天下,而所寿者眾也。既子不瘉,能以瘉人,不既多乎?」余矍然曰:「病語狂,又以其狂者惑人聞聴,可乎?」因択其狂而未甚者存之。

書き下し

三十年來、志す所の『呻吟語』、凡そ若干卷、攜へて以て自ら藥とす。司農大夫の劉景澤、心を攝め性を繕め、平生呻吟する所無し、予甚だ之を愛す。頃ろ鴈門に共事し、各〻苦しむ所を談ず。予『呻吟語』を出して景澤に眎す。景澤曰く、「吾も亦た呻吟する所有れども未だ之を志さざるなり。吾人の病、大都相同じ。子既に之を志せり、盍ぞ以て人に公にせざる。蓋し三益あり。病を醫する者、子の呻吟を見て、將に死せんとする病を起こし、病を同じくする者、子の呻吟を見て、各〻病を醫し、未だ病まざる者、子の呻吟を見て、未然の病を謹まん。是れ子一身を以て懲を天下に示して、壽する所の者衆きなり。既に子瘉えずとも、能く以て人を瘉す、既に多からずや」と。余矍然として曰く、「病語は狂なり、又其の狂を以て人の聞聽を惑はす、可ならんや」と。因りて其の狂にして未だ甚だしからざる者を擇びて之を存す。

現代語訳

三十年来、書きとめてきた『呻吟語』が何巻かあり、持ち歩いて自分の薬としてきました。司農大夫の劉景澤は、心を収め本性を修めて、日ごろうめくところがない人で、私はこの人をたいへん慕っていました。近ごろ雁門で一緒に仕事をし、それぞれ苦しむところを語り合いました。私が『呻吟語』を出して景澤に見せると、景澤は言いました。私にもうめくところはあるが、まだ書きとめていない。人の病はだいたい同じものだ。君はもう書きとめたのだから、どうして世に公けにしないのか。三つの益がある。病を治す者は君のうめきを見て死にかけた病を起こし、同じ病の者は君のうめきを見てそれぞれ病を治し、まだ病まない者は君のうめきを見て未然に慎む。これは君が一身をもって戒めを天下に示し、多くの人を生かすことだ。君自身は治らなくても人を治せるなら、それこそ大きいではないか、と。私ははっとして言いました。病人の言葉は狂っている、その狂った言葉で人の耳を惑わせてよいものか、と。そこで狂ってはいるがひどくないものを選んで残しました。

解説

公けにする理由が、他人の口から語られます。景澤の三つの益という説き方が巧みで、医者にも同病の者にもまだ病まない者にも効く、と読者を三通りに分けて示しました。とりわけ最後の一句が重い。自分は治らなくても人を治せる、と。治した人だけが語る資格を持つのではないという考え方です。そして著者は狂った言葉で人を惑わせてよいのかと躊躇し、ひどくないものだけを選んだと断ります。

この章句が説くこと

公開三益資格躊躇選別

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