説苑 / 雜言
梁相死,惠子欲之梁,渡河而遽墮水中,船人救之。船人曰:「子欲何之而遽也?」曰:「梁無相,吾欲往相之。」船人曰:「子居船橶之間而困,無我則子死矣,子何能相梁乎?」惠子曰:「子居艘楫之間則吾不如子;至於安國家,全社稷,子之比我,蒙蒙如未視之狗耳。」
新字:梁相死,恵子欲之梁,渡河而遽堕水中,船人救之。船人曰:「子欲何之而遽也?」曰:「梁無相,吾欲往相之。」船人曰:「子居船橶之間而困,無我則子死矣,子何能相梁乎?」恵子曰:「子居艘楫之間則吾不如子;至於安国家,全社稷,子之比我,蒙蒙如未視之狗耳。」
書き下し
梁の相死す。恵子梁に之かんと欲し、河を渡りて遽かに水中に墮つ。船人之を救う。船人曰く、「子何に之かんと欲して遽かなるか」と。曰く、「梁に相無し、吾往きて之に相たらんと欲す」と。船人曰く、「子は船橶の間に居りて困しむ、我無くんば則ち子死せん、子何ぞ能く梁に相たらんや」と。惠子曰く、「子は艘楫の間に居るに則ち吾子に如かず。国家を安んじ社稷を全うするに至りては、子の我に比するは、蒙蒙として未だ視ざるの狗のごときのみ」と。
現代語訳
梁の宰相が死んだ。恵子は梁に行こうとして、川を渡る際にあわてて水中に落ちてしまった。舟人がこれを助けた。舟人は「あなたはどこへ行こうとしてそんなに慌てているのですか」と尋ねた。恵子は「梁国に宰相がいないので、私はそこへ行って宰相になろうと思っているのだ」と答えた。舟人は「あなたは舟の中でさえおぼれかけて困っている。私がいなければあなたは死んでいたはずだ。そんなあなたにどうして梁の宰相が務まるだろうか」と言った。恵子は答えた。「舟や櫂を操ることにかけては、私はあなたに及ばない。しかし国家を安んじ、社稷を全うすることに至っては、あなたを私と比べれば、まだ目も開かない子犬のようなものにすぎない」と。
解説
舟を操る技術しか持たない船頭が、国政という全く異なる能力領域まで一括りに無能と決めつけようとしたのに対し、恵子は各々の得意分野の違いをはっきりと切り分けて反論する。現代の職場でも、ある一つの場面での失敗や不器用さを見て、その人の総合的な能力や別分野での実力まで低く見積もってしまう早合点は起こりがちである。この逸話が教えるのは、人の能力は文脈によって全く異なる物差しで測られるべきであり、一つの弱みを見て全体を判断することの危うさと、それに対して自分の専門性をきちんと言葉で説明し切り返す胆力の大切さである。
この章句が説くこと
適材適所早合点専門性
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