説苑 / 善說
林既衣韋衣而朝齊景公,齊景公曰:「此君子之服也?小人之服也?」林既逡巡而作色曰:「夫服事何足以端士行乎?昔者荊為長劍危冠,令尹子西出焉;齊短衣而遂偞之冠,管仲隰朋出焉;越文身剪髮,范蠡大夫種出焉;西戎左衽而椎結,由余亦出焉。即如君言,衣狗裘者當犬吠,衣羊裘者當羊鳴,且君衣狐裘而朝,意者得無為變乎?」景公曰:「子真為勇悍矣,今未嘗見子之奇辯也。一鄰之鬥也,千乘之勝也。」林既曰:「不知君之所謂者何也?夫登高臨危而目不眴,而足不陵者,此工匠之勇悍也;入深淵,刺蛟龍,抱黿鼉而出者,此漁夫之勇悍也;入深山,刺虎豹,抱熊羆而出者,此獵夫之勇悍也;不難斷頭,裂腹暴骨,流血中流者,此武士之勇悍也。今臣居廣廷,作色端辯,以犯主君之怒,前雖有乘軒之賞,未為之動也;後雖有斧質之威,未為之恐也;此既之所以為勇悍也。」
新字:林既衣韋衣而朝斉景公,斉景公曰:「此君子之服也?小人之服也?」林既逡巡而作色曰:「夫服事何足以端士行乎?昔者荊為長剣危冠,令尹子西出焉;斉短衣而遂偞之冠,管仲隰朋出焉;越文身剪髪,范蠡大夫種出焉;西戎左衽而椎結,由余亦出焉。即如君言,衣狗裘者当犬吠,衣羊裘者当羊鳴,且君衣狐裘而朝,意者得無為変乎?」景公曰:「子真為勇悍矣,今未嘗見子之奇弁也。一鄰之鬥也,千乗之勝也。」林既曰:「不知君之所謂者何也?夫登高臨危而目不眴,而足不陵者,此工匠之勇悍也;入深淵,刺蛟竜,抱黿鼉而出者,此漁夫之勇悍也;入深山,刺虎豹,抱熊羆而出者,此猟夫之勇悍也;不難断頭,裂腹暴骨,流血中流者,此武士之勇悍也。今臣居広廷,作色端弁,以犯主君之怒,前雖有乗軒之賞,未為之動也;後雖有斧質之威,未為之恐也;此既之所以為勇悍也。」
書き下し
林既韋衣を衣て齊景公に朝す。齊景公曰く、「此れ君子の服か、小人の服か。」林既逡巡して色を作して曰く、「夫れ服事何ぞ以て士の行いを端すに足らんや。昔者荊は長劍危冠を爲し、令尹子西焉より出づ。齊は短衣にして遂偞の冠、管仲隰朋焉より出づ。越は文身剪髮、范蠡大夫種焉より出づ。西戎は左衽にして椎結、由余も亦た焉より出づ。即ち君の言の如くんば、狗裘を衣る者は當に犬吠すべく、羊裘を衣る者は當に羊鳴すべし。且つ君狐裘を衣て朝す、意うに變を爲す無きを得んか。」景公曰く、「子は眞に勇悍と爲す。今未だ嘗て子の奇辯を見ざりき。一鄰の鬥いや、千乘の勝ちなり。」林既曰く、「君の謂う所の者は何ぞや知らず。夫れ高きに登り危きに臨みて目眴かず、足陵まざる者は、此れ工匠の勇悍なり。深淵に入り、蛟龍を刺し、黿鼉を抱きて出づる者は、此れ漁夫の勇悍なり。深山に入り、虎豹を刺し、熊羆を抱きて出づる者は、此れ獵夫の勇悍なり。頭を斷ち腹を裂き骨を暴し、血を中流に流すを難しとせざる者は、此れ武士の勇悍なり。今臣廣廷に居り、色を作して辯を端し、以て主君の怒りを犯し、前に乘軒の賞有りと雖も、未だ之が爲に動かず。後に斧質の威有りと雖も、未だ之が爲に恐れず。此れ既の勇悍と爲す所以なり。」
現代語訳
林既が革衣を着て斉の景公に参内した。景公は言った。『これは君子の服装か、それとも小人の服装か。』林既はしばらくためらった後、顔色を改めて言った。『そもそも服装の様式など、士たる者の行いを正すのに何の関係がありましょうか。昔、荊(楚)では長い剣に高い冠という服装から、令尹の子西が出ました。斉では短い衣に沿った形の冠から、管仲や隰朋が出ました。越では入れ墨に断髪という風俗から、范蠡や大夫種が出ました。西戎では左前の衣に椎型に結った髪という風俗から、由余もまた出たのです。もし君の言われる通りだとすれば、犬の皮衣を着る者は犬のように吠え、羊の皮衣を着る者は羊のように鳴かねばならないことになります。しかも君は狐の皮衣を着て参内しておられますが、思うにそれによってお変わりになることはないでしょう。』景公は言った。『お前は本当に勇猛だな。これまでお前のこのような奇抜な弁舌を見たことがなかった。これは一つの隣国との争いに匹敵する、千乗の国を制するほどの勝利だ。』林既は言った。『君の言われる意味がよく分かりません。高い所に登り危険な場所に臨んでも目をそらさず、足がすくまない者、これは職人の勇猛さです。深淵に入り、蛟龍を刺し、大亀や鰐を抱いて出てくる者、これは漁師の勇猛さです。深山に入り、虎や豹を刺し、熊を抱いて出てくる者、これは猟師の勇猛さです。頭を断ち腹を裂かれ骨をさらし、血を川のように流すことをものともしない者、これは武士の勇猛さです。今、私は広い朝廷におり、顔色を改めて筋の通った弁論をなし、それによって主君の怒りを犯しました。以前には車に乗るほどの褒賞があったとしても心動かされず、この後に斧で斬られる威嚇があったとしても恐れません。これこそが私、既の勇猛さたる所以なのです。』
解説

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