説苑 / 貴德
晏子飲景公酒,令器必新,家老曰:「財不足,請斂於民。」晏子曰:「止。夫樂者,上下同之,故天子與天下,諸侯與境內,自大夫以下各與其僚,無有獨樂;今上樂其樂,下傷其費,是獨樂者也,不可。」
新字:晏子飲景公酒,令器必新,家老曰:「財不足,請斂於民。」晏子曰:「止。夫楽者,上下同之,故天子与天下,諸侯与境内,自大夫以下各与其僚,無有独楽;今上楽其楽,下傷其費,是独楽者也,不可。」
書き下し
晏子景公の酒を飲むに、器をして必ず新たならしむ。家老曰く、「財足らず、請ふ民に斂めん」と。晏子曰く、「止めよ。夫れ楽なる者は、上下之を同じくす、故に天子は天下と与にし、諸侯は境内と与にし、大夫より以下は各々其の僚と与にす、独り楽しむ有ること無し。今上は其の楽を楽しみ、下は其の費を傷む、是れ独り楽しむ者なり、不可なり」と。
現代語訳
晏子が景公のお供で酒宴に出た際、器はすべて新品でなければならないとされた。家老が「財源が足りませんので、民から取り立てましょう」と言った。晏子は言った、「やめなさい。そもそも楽しみというものは、上下の者が共に分かち合うべきものだ。だから天子は天下の人々と楽しみを共にし、諸侯は国内の人々と楽しみを共にし、大夫以下はそれぞれ同僚と楽しみを共にする。独り占めの楽しみなどあってはならない。今、上の者だけが楽しみを享受し、下の者がその出費に苦しむのでは、これは独り占めの楽しみである。よくない」と。
解説
器を新調するという些細な贅沢の裏に、財源をどこから調達するかという統治の本質が潜むことを見抜いた晏子の言葉である。楽しみは本来「共有されるべきもの」であり、上位者だけが恩恵を享受し下位者がその負担を強いられる構造を「独り占めの楽しみ」と断じる視点は鋭い。現代の組織でいえば、経営陣の接待費や豪華な社内イベントの原資が、現場の待遇改善を犠牲にして捻出されていないかという問いに置き換えられる。楽しみや利益の分配構造そのものが公正であるかどうかが、統治や経営の正統性を左右するという指摘は、コスト意識と公平感の両立を考えるうえで示唆に富む。

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『晏子春秋』雑上・晏子飲景公止家老斂欲與民共樂/晏子飲景公酒公呼具火晏子稱詩以辭晏子景公に酒を飲ましむるに、器をして必ず新しからしむ。家老曰く、「財足らず。請う、氓に斂せん」と。晏子曰く、「止めよ。夫れ楽は、上下之を同じくす。故に天子は天下と、諸侯は境内と、大夫以下は各々其の僚と、独り楽しむこと有る無し。今上は其の楽を楽しみ、下は其の費に傷む、是れ独り楽しむ者なり。不可なり」と。晏子景公に酒を飲ましむ。日暮れ、公火を具えんことを呼ぶ。晏子辞して曰く、「詩に云う、『側弁の俄たる』とは、徳を失うを言う。『屢舞傞傞たり』とは、容を失うを言う。『既に酔いて出ずれば、並びに其の福を受く』とは、賓主の礼なり。『酔いて出でざれば、是を徳を伐つと謂う』とは、賓主の罪なり。臣已に其の日を卜す。未だ其の夜を卜せず」と。公曰く、「善し」と。酒を挙げて之を祭り、再拝して出ず。曰く、「豈我を過たんや。吾国を晏子に托す。其の家貧しきを以て寡人に善くし、其の淫侈ならんことを欲せざるなり。而るを況んや寡人と国を謀るをや」と。
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説苑・反質晏子景公に酒を飲ましむ、日暮れて、公火を具えしめんと呼ぶ、晏子辭して曰く、「詩に曰く、『側牟の俄たり。』德を失うを言うなり。『屢々舞いて傞傞たり。』容を失うを言うなり。『既に醉うに酒を以てし、既に飽くに德を以てす。』『既に醉いて出で、並びに其の福を受く。』賓主の禮なり。『醉いて出でざる、是を伐德と謂う。』賓主の罪なり。嬰已に其の日を卜せるも、未だ其の夜を卜せざるなり。」と。公曰く、「善し。」と。酒を舉げて之を祭り、再拜して出で、曰く、「豈に我を過つや?吾國を晏子に託するなり。其の家貧しくして寡人を善くするを以て、淫侈を欲せざるなり、而るを況んや寡人と國を謀るをや?」と。
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説苑・臣術景公酒を飲む、陳桓子侍り、晏子を望み見て公に復して曰く、「請う晏子を浮せん」と。公曰く、「何の故ぞや」と。対えて曰く、「晏子緇布の衣、麋鹿の裘、棧軫の車にして駑馬を駕して以て朝す、是れ君の賜を隠すなり」と。公曰く、「諾」と。酌者觴を奉じて之を進めて曰く、「君子に浮せよと命ず」と。晏子曰く、「何の故ぞや」と。陳桓子曰く、「君卿位を賜いて以て其の身を尊くし、之を百万に寵して以て其の家を富ませ、群臣の爵、子より尊きは莫く、禄子より厚きは莫し。今子布衣の衣、麋鹿の裘、棧軫の車にして駑馬を駕して以て朝す、則ち是れ君の賜を隠すなり、故に子を浮す」と。晏子席を避けて曰く、「請う飲みて而る後に辞せんか、其れ辞して而る後に飲まんか」と。公曰く、「辞して然る後に飲め」と。晏子曰く、「君卿位を賜いて以て其の身を顕かにす、嬰敢えて顕の為に受けざるなり、君令を行うが為なり。之を百万に寵して以て其の家を富ませ、嬰敢えて富の為に受けざるなり、君の賜を通ずるが為なり。臣聞く、古の賢臣厚賜を受けて其の国族を顧みざれば、則ち之を過つ。事に臨みて職を守り其の任に勝えざれば、則ち之を過つ。君の内隸、臣の父兄、若し離散して野鄙に在る者有らば、此れ臣の罪なり。君の外隸、臣の職とする所、若し播亡して四方に在る者有らば、此れ臣の罪なり。兵革完からず、戦車修まらざるは、此れ臣の罪なり。夫の敝車駑馬を若し以て朝主するは、臣の罪に非ざるなり。且つ臣君の賜を以て、臣の父の党車に乗らざる無く、母の党以て衣食に足らざる無く、妻の党凍餒する者無く、国の簡士臣を待ちて後に火を挙ぐる者数百家なり。此くの如きは君の賜を隠すか、君の賜を彰すか」と。公曰く、「善し、我が為に桓子を浮せよ」と。
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説苑・正諫景公台を為り、台成る。又鐘を為らんと欲す。晏子諫めて曰わく、「君台を為るに勝えざるに、今復た鐘を為らんと欲す。是れ重ねて民に斂むるなり。民の哀しみなり。夫れ民の哀しみを斂めて以て楽と為すは、不祥なり」と。景公乃ち止む。
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説苑・臣術晏子朝す、敝車に乗り駑馬に駕す。景公之を見て曰く、「嘻、夫子の禄寡なきか、何ぞ乗ること任えざるの甚だしきや」と。晏子対えて曰く、「君の賜に頼りて、以て三族及び国の交遊を寿からしめ皆生を得しむ。臣暖衣飽食を得、敝車駑馬、以て其の身を奉ずるは、臣に於いて足れり」と。晏子出づ。公梁丘拠をして輅車乗馬を遺らしむ。三たび返して受けず。公悦ばず、趣ぎて晏子を召す。晏子至る。公曰く、「夫子受けざれば、寡人も亦た乗らじ」と。晏子対えて曰く、「君臣をして百官の吏に臨ましめ、其の衣服飲食の養を節して、以て斉国の人に先んぜしむ。然れども猶お其の侈靡にして其の行いを顧みざらんことを恐る。今輅車乗馬、君之に上に乗り、臣も亦た之に下に乗らば、民の義無くして、其の衣食を侈にして其の行いを顧みざる者は、臣以て之を禁ずる無し」と。遂に譲りて受けず。