戦国策 / 公叔將殺幾瑟
公叔將殺幾瑟也。謂公叔曰:「太子之重公也,畏幾瑟也。今幾瑟死,太子無患,必輕公。韓大夫見王老,冀太子之用事也,固欲事之。太子外無幾瑟之患,而內收諸大夫以自輔也,公必輕矣。不如無殺幾瑟,以恐太子,太子必終身重公矣。」
新字:公叔将殺幾瑟也。謂公叔曰:「太子之重公也,畏幾瑟也。今幾瑟死,太子無患,必軽公。韓大夫見王老,冀太子之用事也,固欲事之。太子外無幾瑟之患,而内収諸大夫以自輔也,公必軽矣。不如無殺幾瑟,以恐太子,太子必終身重公矣。」
書き下し
公叔將に幾瑟を殺さんとす。公叔に謂いて曰く、「太子の公を重んずるは、幾瑟を畏るればなり。今幾瑟死せば、太子患無く、必ず公を輕んぜん。韓の大夫王の老いたるを見て、太子の事を用うるを冀い、固より之に事えんと欲す。太子外に幾瑟の患無くして、內に諸大夫を收めて以て自ら輔けば、公必ず輕んぜられん。幾瑟を殺す無くして、以て太子を恐れしむるに如かず、太子必ず終身公を重んぜん。」
現代語訳
公叔がまさに幾瑟を殺そうとしていた。ある人が公叔に言った。「太子があなたを重んじているのは、幾瑟の存在を恐れているからです。今、幾瑟が死ねば、太子はもう恐れるものがなくなり、必ずあなたを軽んじるようになるでしょう。韓の大夫たちは王が老いたのを見て、太子が実権を握ることを見越し、今からその太子に取り入ろうとしています。太子が外に幾瑟という脅威を持たないまま、内では大夫たちを味方につけて自分の勢力を固めれば、あなたは必ず軽んじられるはずです。ですから幾瑟を殺さず、あえて生かしておいて太子に恐れを抱かせ続けるほうがよいのです。そうすれば太子は生涯あなたを頼み重んじ続けるでしょう。」
解説
この章は、政敵を消し去ることが必ずしも自分の立場を強化しないという逆説を描いています。幾瑟という共通の脅威が存在するからこそ、太子は公叔を必要とし重んじていたのであり、その脅威を取り除いてしまえば、公叔自身の存在価値も薄れてしまうという構造です。目の前の敵を排除することだけに気を取られると、実はその敵の存在によって自分の地位が保たれていたという皮肉な現実を見落としがちです。組織においても、対抗勢力や競合の存在が自分の立場を正当化している場合があり、敵を完全に消すことが必ずしも得策とは限らないという、権力の力学に関する鋭い洞察と言えるでしょう。
この章句が説くこと
権力の均衡幾瑟太子存在価値逆説
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