戦国策 / 秦攻陘
秦攻陘,韓使人馳南陽之地。秦已馳,又攻陘,韓因割南陽之地。秦受地,又攻陘。陳軫謂秦王曰:「國形不便故馳,交不親故割。今割矣而交不親,馳矣而兵不止,臣恐山東之無以馳割事王者矣。且王求百金於三川而不可得,求千金於韓,一旦而具。今王攻韓,是絕上交而固私府也,竊為王弗取也。」
新字:秦攻陘,韓使人馳南陽之地。秦已馳,又攻陘,韓因割南陽之地。秦受地,又攻陘。陳軫謂秦王曰:「国形不便故馳,交不親故割。今割矣而交不親,馳矣而兵不止,臣恐山東之無以馳割事王者矣。且王求百金於三川而不可得,求千金於韓,一旦而具。今王攻韓,是絶上交而固私府也,竊為王弗取也。」
書き下し
秦、陘を攻む、韓人をして南陽の地に馳せしむ。秦已に馳するも、又た陘を攻む、韓因りて南陽の地を割く。秦地を受くるも、又た陘を攻む。陳軫、秦王に謂いて曰く、「国形便ならざれば故に馳せ、交わり親しからざれば故に割く。今、割くも交わり親しからず、馳するも兵止まず、臣恐らくは山東の馳割を以て王に事うる無からんことを。且つ王百金を三川に求むれども得べからず、千金を韓に求むれば、一旦にして具わる。今、王韓を攻む、是れ上交を絶ちて私府を固むるなり、竊かに王の為に取らざるなり。」
現代語訳
秦が韓の陘の地を攻めた。韓は人を遣わして南陽の地に馬を馳せさせ、事態収拾のため奔走した。秦はそれでもなお陘を攻め続けたため、韓はそこで南陽の地を割いて差し出した。ところが秦はその土地を受け取っておきながら、さらに陘を攻めた。陳軫が秦王に言った。「国の情勢が思わしくないからこそ奔走し、外交関係が親密でないからこそ土地を割いて差し出すのです。いま土地を割いても関係は親密にならず、奔走しても兵の攻撃は止まらないとなれば、わたくしは、山東の諸国がもはや奔走したり土地を割いたりして王にお仕えしようとはしなくなるのではないかと恐れます。そもそも王が三川で百金を求めても得られないことがありますが、韓に千金を求めれば、たちまち用意されます。いま王が韓を攻め続けるのは、上位の外交関係を断ち切って、目先の私的な蓄えを固めるようなものです。わたくしはひそかに、王のためにこれを得策とは思いません。」
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
戦国策・秦伐宜陽秦、宜陽を伐つ。楚王、陳軫に謂いて曰く、「寡人聞く、韓侈は巧士なり、諸侯の事に習い、殆ど自ら免るる能わん。其の必ず免れんが為に、吾之に先んじて拠りて以て徳を加えんと欲す。」陳軫対えて曰く、「之を舎て、王拠ること勿かれ。韓侈の知を以てするも、此に於て困しまん。今、山沢の獣は、麋より黠なるは無し。麋、猟者の罔を張るを知りて、前だちて己を駆るに因り、還り走りて人に冒すこと、数に至る。猟者其の詐を知り、偽りて罔を挙げて之に進むれば、麋因りて得らる。今、諸侯明らかに此の多詐を知り、偽りて罔を挙げて進む者必ず衆からん。之を舎て、王拠ること勿かれ。韓侈の知は、此に於て困しまん。」楚王之を聴く、宜陽果たして抜かる。陳軫先に之を知れるなり。
-
戦国策・秦攻韓圍陘秦韓を攻め、陘を圍む。范睢秦昭王に謂ひて曰く、「人を攻むる者有り、地を攻むる者有り。穰侯十たび魏を攻めて傷つくるを得ざる者は、秦弱くして魏強きに非ざるなり、其の攻むる所の者、地なればなり。地なる者は、人主の甚だ愛する所なり。人主なる者は、人臣の樂しみて死する所なり。人主の愛する所を攻め、樂しみて死する者と鬥へば、故に十たび攻めて勝つ能はざるなり。今王將に韓を攻めて陘を圍まんとす、臣願はくは王の獨り其の地を攻めずして、其の人を攻めんことを。王韓を攻め陘を圍むに、張儀を以て言と爲せ。張儀の力多くんば、且つ地を削りて以て自ら王に贖ひ、幾んど地を割きて韓盡きざらん。張儀の力少なくんば、則ち王張儀を逐ひ、更に張儀に如かざる者と市せよ。則ち王の韓に求むる所の者、言ひて得可きなり。」
-
戦国策・秦伐魏秦魏を伐つ、陳軫三晉を合はせて東のかた齊王に謂ひて曰く、「古の王者の伐つや、天下を正して功名を立て、以て後世の爲にせんと欲す。今齊・楚・燕・趙・韓・梁六國の遞に甚だしきは、以て功名を立つるに足らず、適ま秦を強くして自ら弱くするに足るのみ、山東の上計に非ざるなり。山東を危ふくする能ふ者は、強秦なり。強秦を憂へずして、遞ひに相ひ罷弱し、兩ながら其の國を秦に歸す、此れ臣の以て山東の患と爲す所なり。天下秦の爲に相ひ割き、秦曾て力を出ださず。天下秦の爲に相ひ烹らる、秦曾て薪を出ださず。何ぞ秦の智にして山東の愚なるや。願はくは大王の察せんことを。「古の五帝・三王・五伯の伐つや、不道なる者を伐つなり。今秦の天下を伐つや然らず、必ず之を反せんと欲す。主必ず死辱し、民必ず死虜せらる。今韓・梁の目未だ嘗て乾かざるに、齊の民獨り然らざるは、齊親しみて韓・梁疏きに非ざるなり、齊は秦に遠くして韓・梁は近ければなり。今齊將に近からんとす。今秦梁の絳・安邑を攻めんと欲す。秦絳・安邑を得て以て東のかた河を下さば、必ず河を表裏にして東のかた齊を攻め、齊を舉げて之を海に屬し、南面して楚・韓・梁を孤にし、北向して燕・趙を孤にせん。齊其の計を出だす所無からん。願はくは王の熟慮せんことを。「今三晉已に合せり、復た兄弟の約を爲し、而して銳師を出だして梁の絳・安邑を戍らば、此れ萬世の計なり。齊急に銳師を以て三晉に合はせずんば、必ず後憂有らん。三晉合せば、秦必ず敢へて梁を攻めず、必ず南のかた楚を攻めん。楚・秦難を構へば、三晉齊の己に與せざるを怒りて、必ず東のかた齊を攻めん。此れ臣の所謂齊必ず大憂有りとするなり、急に兵を以て三晉に合するに如かず。」齊王敬みて諾し、果して兵を以て三晉に合す。
-
戦国策・韓人攻宋韓人宋を攻む、秦王大いに怒りて曰く、「吾宋を愛すること、新城・陽晉と同じきなり。韓珉我と交わりて、我が甚だ愛する所を攻む、何ぞや。」蘇秦韓の為に秦王に說きて曰く、「韓珉の宋を攻むるは、王の為にする所以なり。韓の強きを以て、之を輔くるに宋を以てせば、楚・魏必ず恐れん。恐るれば、必ず西面して秦に事えん。王一兵を折らず、一人を殺さずして、事無くして安邑を割かん、此れ韓珉の秦に禱る所以なり。」秦王曰く、「吾固より韓の知り難きを患う、一從一橫、此れ其の說何ぞや。」對えて曰く、「天下固より韓をして知る可からしむ。韓故に已に宋を攻めたり、其の西面して秦に事うるは、萬乘を以て自ら輔くるなり。西のかた秦に事えずんば、則ち宋地安からず。中國白頭游敖の士、皆智を積みて秦・韓の交わりを離れしめんと欲す。軾に伏し靷を結びて西馳する者、未だ一人として善韓を言う者有らざるなり。軾に伏し靷を結びて東馳する者、未だ一人として善秦を言う者有らざるなり。皆秦・韓の合するを欲せざる者は何ぞや。則ち晉・楚智にして韓・秦愚なればなり。晉・楚合すれば、必ず韓・秦を伺わん。韓・秦合すれば、必ず晉・楚を圖らん。請う以て事を決せん。」秦王曰く、「善し。」
-
戦国策・秦二・陘山之事陘山の事、趙且に秦と齊を伐たんとす。齊懼れ、田章をして陽武を以て趙に合せしめ、順子を以て質と為さしむ。趙王喜び、乃ち兵を案じて秦に告げて曰わく、「齊陽武を以て弊邑に賜いて順子を納れ、以て伐を解かんと欲す。敢えて下吏に告ぐ。」秦王公子他をして趙に之かしめ、趙王に謂いて曰わく、「齊大國と魏を救いて約に倍けり、信恃すべからず。大國不義なるを以て、弊邑に告げ、之に二社の地を賜いて、以て祭祀を奉ぜしむ。今又兵を案じ、且つ齊に合して其の地を受けんと欲す、使臣の知る所に非ざるなり。請う甲四萬を益さん、大國之を裁せよ。」蘇代齊の為に書を穰侯に獻じて曰わく、「臣往來する者の言うを聞くに曰わく、『秦且に趙の甲四萬人を益して以て齊を伐たんとす』と。臣竊かに之を弊邑の王に必して曰わく、『秦王明にして計に熟し、穰侯智にして事に習う、必ず趙の甲四萬人を益して以て齊を伐たざらん』と。是れ何ぞや。夫れ三晉相結ぶは、秦の深讎なり。三晉百たび秦に背き、百たび秦を欺くも、不信と為さず、無行と為さず。今齊を破りて趙を肥やせば、趙は、秦の深讎なり、秦に利あらず。一なり。秦の謀者必ず曰わん、『齊を破り晉を弊れしめて、而る後に晉・楚の勝を制せん』と。夫れ齊は、罷れたる國なり、天下を以て之を擊つは、譬えば千鈞の弩を以て癰を潰すがごとし。秦王安んぞ能く晉・楚を制せんや。二なり。秦兵を出だすこと少なければ、則ち晉・楚信ぜず。多く出だせば、則ち晉・楚秦に制せらる。齊恐れなば、則ち必ず秦に走らずして且つ晉・楚に走らん。三なり。齊地を割きて以て晉・楚を實たせば、則ち晉・楚安んず。齊兵を舉げて之が為に劍を頓せば、則ち秦反りて兵を受けん。四なり。是れ晉・楚秦を以て齊を破り、齊を以て秦を破らしむるなり、何ぞ晉・楚の智にして齊・秦の愚なるや。五なり。秦安邑を得て、齊を善くして以て之を安んずれば、亦た必ず患い無からん。秦安邑有れば、則ち韓・魏必ず上黨無からんや。夫れ三晉の腸胃を取ると、兵を出だして其の反らざるを懼るると、孰れか利あらん。故に臣竊かに之を弊邑の王に必して曰わく、『秦王明にして計に熟し、穰侯智にして事に習う、必ず趙の甲四萬人を益して以て齊を伐たざらん』と。」
-
戦国策・楚魏戰於陘山楚・魏陘山に戰ふ。魏秦に上洛を許し、以て秦を楚に絕たしむ。魏戰ひて勝ち、楚南陽に敗る。秦賂を魏に責むるも、魏與へず。營淺秦王に謂ひて曰く、「王何ぞ楚王に謂ひて曰はざる、魏寡人に地を許すも、今戰ひて勝ち、魏王寡人に倍けりと。王何ぞ寡人と遇せざる。魏秦・楚の合するを畏れ、必ず秦に地を與へん。是れ魏楚に勝ちて秦に地を亡ふなり。是れ王魏の地を以て寡人に德とせば、秦の楚に之く者資多からん。魏弱く、若し地を出ださずんば、則ち王其の南を攻め、寡人其の西を絕たん、魏必ず危からん。」秦王曰く、「善し。」是を以て楚に告ぐ。楚王揚言して秦と遇せんとす、魏王之を聞きて恐れ、上洛を秦に效す。