戦国策 / 惠施為韓魏交
惠施為韓、魏交,令太子鳴為質於齊。王欲見之,朱倉謂王曰:「何不稱病?臣請說嬰子曰:『魏王之年長矣,今有疾,公不如歸太子以德之。不然,公子高在楚,楚將內而立之,是齊抱空質而行不義也。』」
新字:恵施為韓、魏交,令太子鳴為質於斉。王欲見之,朱倉謂王曰:「何不称病?臣請説嬰子曰:『魏王之年長矣,今有疾,公不如帰太子以徳之。不然,公子高在楚,楚将內而立之,是斉抱空質而行不義也。』」
書き下し
惠施韓・魏の交わりを為し、太子鳴をして齊に質と為らしむ。王之を見んと欲す、朱倉王に謂いて曰く、「何ぞ病と称せざる。臣請う嬰子に説きて曰わん、『魏王の年長ぜり、今疾(やまい)有り、公は太子を帰して以て之に徳とするに如かず。然らずんば、公子高楚に在り、楚将に内(い)れて之を立てんとす、是れ齊空質を抱きて不義を行うなり』と」と。
現代語訳
惠施は韓と魏の関係を取り持ち、太子鳴を斉への人質とさせた。魏王はその太子に会いたいと願った。朱倉は王にこう説いた。「なぜ仮病を使わないのですか。私から田嬰(斉の宰相)にこう説きましょう。『魏王はご高齢で、今病にかかっておられます。あなたは太子を帰国させて恩を売っておくのがよいでしょう。そうしなければ、公子高が楚に滞在しており、楚がいずれ彼を魏に送り込んで太子に立ててしまうかもしれません。そうなれば斉は空しく人質だけを抱えたまま、道理に外れたことをしたことになりますよ』と。」
解説
斉に人質として送られた太子鳴を父王のもとに帰国させるため、朱倉が知恵を働かせる話です。正面から「人質を返してほしい」と頼むのではなく、「魏王が病である」という(おそらく口実の)情報と、「対抗馬となりうる公子高が楚にいる」という脅威を組み合わせ、田嬰にとって太子を帰す方が得策だと思わせる論理を組み立てています。人質という弱みを抱えた側が、相手に恩を売らせる形に持ち込んで局面を打開する交渉術です。相手に「先に動かなければ損をする」と思わせることで、こちらから頭を下げずに望む結果を引き出す発想は、現代の交渉においても応用の利く視点と言えるでしょう。
この章句が説くこと
恵施太子鳴人質朱倉外交交渉