戦国策 / 張儀走之魏
張儀走之魏,魏將迎之。張丑諫於王,欲勿內,不得於王。張丑退,復諫於王曰:「王亦聞老妾事其主婦者乎?子長色衰,重家而已。今臣之事王,若老妾之事其主婦者。」魏王因不納張儀。
新字:張儀走之魏,魏将迎之。張丑諫於王,欲勿内,不得於王。張丑退,復諫於王曰:「王亦聞老妾事其主婦者乎?子長色衰,重家而已。今臣之事王,若老妾之事其主婦者。」魏王因不納張儀。
書き下し
張儀走りて魏に之く、魏将に之を迎えんとす。張丑王に諫め、内(い)るる勿からんことを欲するも、王に得ず。張丑退き、復た王に諫めて曰わく、「王も亦老妾の其の主婦に事うる者を聞くか。子長じ色衰うれば、家を重んずるのみ。今臣の王に事うるは、老妾の其の主婦に事うるが若し。」魏王因りて張儀を納れず。
現代語訳
張儀は逃げて魏へ向かい、魏はまさに彼を迎え入れようとしていた。張丑は王を諫め、彼を受け入れないようにしたいと考えたが、王の同意を得られなかった。張丑は一度退いたが、改めて王を諫めてこう言った。「王もお聞きになったことがございましょう、年老いた妾が正妻に仕える話を。子が成長し容色が衰えれば、その妾はもはや寵愛ではなく、家の中での地位を保つことだけを大切にするようになるものです。今、私が王にお仕えしているのは、ちょうど年老いた妾が正妻に仕えるようなものでございます。」魏王はこの言葉によって、張儀を受け入れないことにした。
解説
この一篇は、政敵に追われて魏へ逃れてきた張儀を魏王が迎え入れようとしたのに対し、家臣の張丑が独特な比喩を用いて思いとどまらせた短い記事です。張丑は一度目の諫言では聞き入れられませんでしたが、あきらめずに再度進言し、「年老いた妾が若さゆえの寵愛を失った後は、正妻に忠実に仕えることで家の中の居場所を守ろうとする」という譬えを持ち出します。これは暗に、自分もまたかつての実力に頼れなくなった今、王への忠誠だけを頼みに仕えているのだと訴えることで、自らの進言の重みと誠実さを印象づけ、王の判断を翻させたものと読めます。一度目の説得が失敗しても粘り強く別の角度から訴えかける姿勢、そして身近で分かりやすい比喩によって相手の心情に訴える語り口の巧みさが、この短い逸話の見どころです。
この章句が説くこと
戦国策魏一張儀張丑比喩による説得
関連する章句
-
戦国策・張子儀以秦相魏張子儀、秦を以て魏に相たり、斉・楚怒りて魏を攻めんと欲す。雍沮、張子に謂いて曰わく、「魏の公を相とする所以は、公相たれば則ち国家安んじて、百姓患い無きを以てなり。今公相たりて魏兵を受く、是れ魏の計の過ちなり。斉・楚魏を攻めば、公必ず危うからん。」張子曰わく、「然らば則ち奈何せん。」雍沮曰わく、「請う斉・楚をして攻めを解かしめん。」雍沮斉・楚の君に謂いて曰わく、「王も亦張儀の秦王に約するを聞くか。曰わく、『王若し儀を魏に相とせしめば、斉・楚儀を悪みて、必ず魏を攻めん。魏戦いて勝たば、是れ斉・楚の兵折れて、儀固より魏を得ん。若し魏に勝たずんば、魏必ず秦に事えて以て其の国を持し、必ず地を割きて王に賂わん。若し復た攻めんと欲するも、其の敝(つい)え秦に応ずるに足らず』と。此れ儀の秦王と陰かに相結ぶ所以なり。今儀魏に相たりて之を攻むれば、是れ儀の計を秦に当たらしむるなり、儀を窮するの道に非ざるなり。」斉・楚の王曰わく、「善し。」乃ち遽かに魏を攻むるを解く。
-
戦国策・張儀惡陳軫於魏王張儀、陳軫を魏王に悪(にく)ましめて曰わく、「軫善く楚に事え、壌埊を求めんが為に、甚だ之に力(つと)む。」左華、陳軫に謂いて曰わく、「儀魏王に善くせられ、魏王甚だ之を愛す。公百たび之を説くと雖も、猶お聴かれざらん。公儀の言を以て資と為して、楚王に反(かえ)るに如かず。」陳軫曰わく、「善し。」因りて人をして先に楚王に言わしむ。
-
戦国策・魏王將相張儀魏王将に張儀を相たらしめんとす、犀首利あらずとし、故に人をして韓の公叔に謂わしめて曰わく、「張儀秦・魏を合するを以てせり。其の言に曰わく、『魏南陽を攻め、秦三川を攻めば、韓氏必ず亡びん』と。且つ魏王の張子を貴ぶ所以は、埊を得んと欲すればなり、則ち韓の南陽挙がらん。子盍(なん)ぞ少しく委ねざる、以て衍の功と為さば、則ち秦・魏の交わり廃すべし。此くの如くんば、則ち魏必ず秦を図りて儀を棄て、韓を収めて衍を相とせん。」公叔以て信と為し、因りて之を委ね、犀首以て功と為し、果たして魏に相たり。
-
戦国策・楚王逐張儀於魏楚王、張儀を魏に逐う。陳軫曰く、「王、何ぞ張子を逐うや。」曰く、「臣為り不忠不信なるが為なり。」曰く、「不忠ならば、王以て臣と為すこと無かれ。不信ならば、王与に約を為すこと勿かれ。且つ魏の臣、不忠不信なるも、王に於て何ぞ傷まん。忠にして且つ信なるも、王に於て何の益あらん。逐いて聴かるれば則ち可なり、若し聴かれずんば、是れ王をして困しめしむるなり。且つ万乗の国をして其の相を免ぜしむるは、是れ城下の事なり。」
-
戦国策・張儀逐惠施於魏張儀、恵施を魏に逐う。恵子、楚に之き、楚王之を受く。馮郝、楚王に謂いて曰く、「恵子を逐いし者は張儀なり。而るに王親ら与に約すれば、是れ儀を欺くなり、臣王の為に取らざるなり。恵子は儀の為にする者来たらば、而ち王の張儀に交わるを悪まん、恵子必ず行かざらん。且つ宋王の恵子を賢とするは、天下聞かざる莫きなり。今の張儀を善みせざるも、天下知らざる莫きなり。今、事の故を以て、貴ぶ所を讎人に棄つれば、臣以て大王軽んぜらると為すなり。且つ事を為すか。王は恵子を挙げて之を宋に納るるに如かず、而して張儀に謂いて曰く、『請う子の為に納るる勿からん。』と。儀必ず王に徳とせん。而して恵子窮人にして、王之を奉ずれば、又必ず王に徳とせん。此れ儀の実を失わずして、以て恵子に徳とすべし。」楚王曰く、「善し。」乃ち恵子を奉じて之を宋に納る。
-
戦国策・秦一・楚攻魏張儀謂秦王楚魏を攻む。張儀秦王に謂いて曰わく、「魏に與して以て之を勁くするに如かず。魏戰いて勝たば、復た秦に聽き、必ず西河の外を入れん。勝たずんば、魏守る能わず、王必ず之を取らん。」王儀の言を用い、皮氏の卒萬人、車百乘を取りて、以て魏に與う。犀首威王に戰い勝つも、魏兵罷弊し、秦を恐畏し、果たして西河の外を獻ず。