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戦国策 / 希寫見建信君

希寫見建信君。建信君曰:「文信侯之於僕也,甚無禮。秦使人來仕,僕官之丞相,爵五大夫。文信侯之於僕也,甚矣其無禮也。」希寫曰:「臣以為今世用事者,不如商賈。」建信君悖然曰:「足下卑用事者而高商賈乎?」曰:「不然。夫良商不與人爭買賣之賈,而謹司時。時賤而買,雖貴已賤矣;時貴而賣,雖賤已貴矣。昔者,文王之拘於牖里,而武王羈於玉門,卒斷紂之頭而縣於太白者,是武王之功也。今君不能與文信侯相伉以權,而責文信侯少禮,臣竊為君不取也。」

新字:希写見建信君。建信君曰:「文信侯之於僕也,甚無礼。秦使人来仕,僕官之丞相,爵五大夫。文信侯之於僕也,甚矣其無礼也。」希写曰:「臣以為今世用事者,不如商賈。」建信君悖然曰:「足下卑用事者而高商賈乎?」曰:「不然。夫良商不与人争買売之賈,而謹司時。時賤而買,雖貴已賤矣;時貴而売,雖賤已貴矣。昔者,文王之拘於牖里,而武王羈於玉門,卒断紂之頭而県於太白者,是武王之功也。今君不能与文信侯相伉以権,而責文信侯少礼,臣竊為君不取也。」

書き下し

希写建信君に見ゆ。建信君曰く、「文信侯の僕に於けるや、甚だ礼無し。秦人をして来仕せしめ、僕之を丞相に官し、爵五大夫とす。文信侯の僕に於けるや、甚だしきかな其の礼無きや」と。希写曰く、「臣以為えらく、今世用事する者は、商賈に如かず」と。建信君悖然として曰く、「足下用事する者を卑しめて商賈を高しとするか」と。曰く、「然らず。夫れ良商は人と買売の価を争わずして、謹んで時を司る。時賤しくして買えば、貴しと雖も已に賤し。時貴くして売れば、賤しと雖も已に貴し。昔者、文王の牖里に拘われ、武王の玉門に羈がれしも、卒に紂の頭を断りて太白に懸くる者は、是れ武王の功なり。今君文信侯と権を以て相伉つ能わずして、文信侯の礼少きを責む、臣窃かに君の為に取らざるなり」と。

現代語訳

希写が建信君に会った。建信君は言った。「文信侯(呂不韋)は私に対して、まことに無礼です。秦は人を遣わして仕官させ、その者を私は丞相の位に就け、五大夫の爵位を与えました。それなのに文信侯の私への態度は、はなはだしく無礼なのです。」希写は言った。「私が思いますに、今の世で実権を握っている者は、商人にすら及ばないものです。」建信君は憤然として言った。「そなたは実権を握る者を卑しめて、商人を高く評価するというのか。」希写は言った。「そうではありません。そもそも優れた商人は、人と売買の値段を争ったりせず、慎重に時機をうかがうものです。時勢が安いときに買っておけば、後で値が上がってももう安く手に入れたことになります。時勢が高いときに売れば、後で値が下がってももう高く売ったことになります。昔、文王は牖里に幽閉され、武王もまた玉門で拘束されましたが、最後には紂王の首を断ち切って太白の旗に懸けたのは、これは武王の功績です。今、あなたは権勢の点で文信侯に対抗することができないのに、文信侯の礼が足りないことばかりを責めておられます。私はひそかに、あなたのためにそれは取るべき態度ではないと思うのです。」

解説

この章は、秦の実力者文信侯(呂不韋)の無礼な態度を嘆く建信君に対し、希写が「良い商人は時機を見て動く」という譬えで反論する逸話です。文王・武王の故事を引き、幽閉という屈辱に耐えながらも力を蓄えて最終的に紂王を討った武王の忍耐と時機の見極めこそが真の功績だと説き、目先の礼儀作法への不満にこだわるより、力の差を冷静に認識して雌伏する方が賢明だと諭します。相手の礼を責める前に、自らの実力と立場を直視すべきだという指摘は、感情的な不満より状況判断を優先する処世の知恵として、現代の人間関係や組織内の力学にも通じます。

この章句が説くこと

希写建信君文信侯呂不韋処世術

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