葉隠 / 聞書第十一
口論の時心持の事 口論の仕樣はまづ相手に言はせ、過言の弱みにつけ込む事。隨分尤もと折れて見せ、向ふに詞を盡くさせ、勝ちに乗つて過言を、弱みを見取つて返し、思ふ程云ふべし。
新字:口論の時心持の事 口論の仕様はまづ相手に言はせ、過言の弱みにつけ込む事。随分尤もと折れて見せ、向ふに詞を尽くさせ、勝ちに乗つて過言を、弱みを見取つて返し、思ふ程云ふべし。
書き下し
口論の時心持(こころもち)の事。口論の仕様(しよう)はまづ相手に言はせ、過言(かごん)の弱みにつけ込む事。随分(ずいぶん)尤(もっと)もと折れて見せ、向(むこ)ふに詞(ことば)を尽くさせ、勝ちに乗つて過言を、弱みを見取つて返し、思ふ程云ふべし。
現代語訳
口論のときの心構えについて。口論のやり方は、まず相手に十分言わせて、その言い過ぎの隙につけ込むことだ。いかにももっともだと折れて見せ、相手に言葉を出し尽くさせ、勝ちに乗じて言い過ぎたところを、その弱みを見抜いて言い返し、思う存分言ってやるのがよい。
解説
口論の際は、まず相手に存分に言わせよ、という実戦的な処世術を説いた一条です。感情に任せて先に言い立てるのではなく、あえて引いて相手の言葉を尽くさせ、その言い過ぎや矛盾という隙を見つけてから反撃せよ、というのです。先に激すれば足元を見られ、待てば相手が自ら弱みをさらす。交渉や議論で「聞く側に回る」ことの強さを突いた知恵といえます。ただし勝ちに乗じて思う存分言い返すという結びには、相手を打ち負かすことを目的とする攻撃的な色合いが濃く、現代の建設的な対話とはやや隔たります。相手に語らせて理解する前半の姿勢こそ、今も活かせる要点です。
この章句が説くこと
葉隠口論処世術傾聴交渉弱みを見抜く
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