戦国策 / 韓齊為與國
韓、齊為與國。張儀以秦、魏伐韓。齊王曰:「韓,吾與國也。秦伐之,吾將救之。」田臣思曰:「王之謀過矣,不如聽之。子噲與子之國,百姓不戴,諸侯弗與。秦伐韓,楚、趙必救之,是天下以燕賜我也。」王曰:「善。」乃許韓使者而遣之。韓自以得交於齊,遂與秦戰。楚、趙果遽起兵而救韓,齊因起兵攻燕,三十日而舉燕國。
新字:韓、斉為与国。張儀以秦、魏伐韓。斉王曰:「韓,吾与国也。秦伐之,吾将救之。」田臣思曰:「王之謀過矣,不如聴之。子噲与子之国,百姓不戴,諸侯弗与。秦伐韓,楚、趙必救之,是天下以燕賜我也。」王曰:「善。」乃許韓使者而遣之。韓自以得交於斉,遂与秦戦。楚、趙果遽起兵而救韓,斉因起兵攻燕,三十日而舉燕国。
書き下し
韓・齊、與國(よこく)為(た)り。張儀、秦・魏を以て韓を伐つ。齊王曰く、「韓は吾が與國なり。秦之を伐たば、吾將に之を救はんとす。」田臣思曰く、「王の謀は過てり。之を聽くに如かず。子噲、子之に國を與へしも、百姓戴かず、諸侯與せず。秦、韓を伐たば、楚・趙必ず之を救はん、是れ天下、燕を以て我に賜ふなり。」王曰く、「善し。」乃ち韓の使者を許して之を遣る。韓、自ら齊に交を得たりと以爲し、遂に秦と戰ふ。楚・趙果たして遽(にはか)に兵を起こして韓を救ひ、齊因りて兵を起こして燕を攻め、三十日にして燕國を舉ぐ。
現代語訳
韓と斉は同盟国であった。張儀は秦・魏の兵を率いて韓を攻めた。斉王は「韓はわが同盟国だ。秦が攻めるなら、私は救援しよう」と言った。田臣思は言った。「王のお考えは誤っています。ここは救援すると承知しておくだけになさるべきです。秦が韓を攻めれば、楚・趙は必ず韓を救うでしょう。それは天下が燕を我々にくれるようなものです。」王は「よろしい」と言い、韓の使者に承知の返事をして帰した。韓は斉と誼を通じたと思い込み、そのまま秦と戦った。案の定、楚・趙は急いで兵を挙げて韓を救援し、斉はその隙に兵を起こして燕を攻め、三十日で燕の国土を制圧した。
解説
本篇は、口先の約束と実際の出兵とを使い分ける斉の外交術を描いています。斉王は韓に「救う」と伝えるだけで実際には動かず、楚・趙が韓を助けている間に燕を攻め取ります。田臣思の進言は、味方への義理立てよりも自国の実利を優先する典型的な縦横家の発想であり、戦国期における同盟の脆さと、言葉と行動を切り離す駆け引きの巧妙さを物語っています。現代においても、約束の言葉と実際の行動は必ずしも一致するとは限らず、相手の言葉だけでなく行動の意図を見極める目が求められる、という教訓として読むことができます。無批判に模倣すべき手本ではなく、信義の重さを考えさせる事例として受け止めたいところです。
この章句が説くこと
戦国策斉韓張儀外交術