戦国策 / 秦二・秦王謂甘茂
秦王謂甘茂曰:「楚客來使者多健,與寡人爭辭,寡人數窮焉,為之奈何?」甘茂對曰:「王勿患也!其健者來使者,則王勿聽其事;其需弱者來使,則王必聽之。然則需弱者用,而健者不用矣!王因而制之。」
新字:秦王謂甘茂曰:「楚客来使者多健,与寡人争辞,寡人数窮焉,為之奈何?」甘茂対曰:「王勿患也!其健者来使者,則王勿聴其事;其需弱者来使,則王必聴之。然則需弱者用,而健者不用矣!王因而制之。」
書き下し
秦王甘茂に謂いて曰わく、「楚客の來りて使いする者健なる多く、寡人と辭を爭い、寡人數々窮す。之を為すこと奈何せん。」甘茂對えて曰わく、「王患うる勿かれ。其の健なる者來りて使いせば、則ち王其の事を聽く勿かれ。其の需弱なる者來りて使いせば、則ち王必ず之を聽け。然らば則ち需弱なる者用いられて、健なる者用いられず。王因りて之を制せん。」
現代語訳
秦王は甘茂に言った。「楚から来る使者には弁の立つ者が多く、私と言葉を戦わせるたびに、私はしばしば言い負かされてしまう。これをどうしたものか。」甘茂は答えて言った。「王はご心配には及びません。弁の立つ者が使者として来たときは、王はその言い分をお聞き入れにならないでください。逆に弱腰で頼りない者が使者として来たときは、王は必ずその言い分をお聞き入れください。そうすれば、弱腰の者の言い分ばかりが用いられ、弁の立つ優秀な使者は用いられなくなります。王はこうすることで、楚を意のままに制することができましょう。」
解説
弁舌に長けた楚の使者に言い負かされがちだった秦王に対し、甘茂は「相手の主張の巧拙で応対を変える」という逆転の発想を提案しました。優秀な使者の言い分だけを聞き入れていては、常に楚の思惑通りに交渉が進んでしまいますが、あえて口下手な使者の言い分だけを採用する姿勢を貫けば、楚は交渉を有利に進めるために有能な人材を送り込む意味を失い、結果として交渉の主導権を秦が握れるようになるという狙いです。相手の交渉力そのものを弱める仕組みを作るという、直接の弁論勝負を避けた高度な駆け引きが光ります。現代の交渉やビジネスの場でも、相手の最も優れた交渉担当者とまともに渡り合うのではなく、交渉のルールや評価基準そのものを自分に有利な形に設計し直すという発想は、力で劣る側が主導権を握るための有効な戦術になり得ます。
この章句が説くこと
甘茂秦王楚外交交渉駆け引き
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