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斉家論 / 下

舟路陸路海賊山賊の患ひも知らず、近くは閭巷の區々まで、我家々々に安居して、士農工商をのれをのれが業に心をいるれば、何の不自由なきやうにとの御仁政、上は申も恐れあり、それぞれ所々に、司位にましまして、日々夜々に怠らず、是を治めたまはり、又家業の隙ある折々は、月花のたのしみも心にまかせ、且志あれば、聖人の道を學び、貧福ともに天命なれば、此身このまゝにて足ることの敎をきく、此國恩の大なること、天地のごとくにして、中々筆にも盡すまじ、下として無道放逸をなし、上を犯し、我分限を知らず、身をおごり、人のいたみをしらざるは、悲き事かな、さある人は、天罰のがるゝ事有まじ、今誠に目覺る心地して、

新字:舟路陸路海賊山賊の患ひも知らず、近くは閭巷の区々まで、我家々々に安居して、士農工商をのれをのれが業に心をいるれば、何の不自由なきやうにとの御仁政、上は申も恐れあり、それぞれ所々に、司位にましまして、日々夜々に怠らず、是を治めたまはり、又家業の隙ある折々は、月花のたのしみも心にまかせ、且志あれば、聖人の道を学び、貧福ともに天命なれば、此身このまゝにて足ることの教をきく、此国恩の大なること、天地のごとくにして、中々筆にも尽すまじ、下として無道放逸をなし、上を犯し、我分限を知らず、身をおごり、人のいたみをしらざるは、悲き事かな、さある人は、天罰のがるゝ事有まじ、今誠に目覚る心地して、

書き下し

舟路陸路海賊山賊の患ひも知らず、近くは閭巷の区々まで、我が家々々に安居して、士農工商をのれをのれが業に心をいるれば、何の不自由なきやうにとの御仁政、上は申すも恐れあり。それぞれ所々に、司位にましまして、日々夜々に怠らず、是を治めたまはり、又家業の隙ある折々は、月花のたのしみも心にまかせ、且つ志あれば、聖人の道を学び、貧福ともに天命なれば、此の身このまゝにて足ることの教をきく。此の国恩の大なること、天地のごとくにして、中々筆にも尽すまじ。下として無道放逸をなし、上を犯し、我が分限を知らず、身をおごり、人のいたみをしらざるは、悲しき事かな。さある人は、天罰のがるゝ事有るまじ。今誠に目覚むる心地して、

現代語訳

船の道も陸の道も海賊や山賊の心配を知らず、身近には町の隅々まで、それぞれの家で安心して暮らし、士農工商がおのおの自分の家業に心を入れれば、何の不自由もないようにという御仁政で、上のことは申すのも恐れ多いことです。それぞれの持ち場で役人がおられて、日夜怠らずにこれを治めてくださり、また家業の暇なときには、月や花の楽しみも思いのままで、さらに志があれば聖人の道を学び、貧しさも豊かさも天命なのだから、この身のままで足りるという教えを聞くことができます。この国の恩の大きさは天地のようで、とても筆には尽くせません。下の身でありながら無道で勝手放題をし、上に逆らい、自分の分限を知らず、身をおごり、人の痛みを知らないのは、悲しいことです。そういう人は天罰を逃れることはないでしょう。今まことに目が覚めた心地がして、

解説

門弟の序は、泰平の世の恩恵を具体的に数えます。物資が遠くから安全に届き、町の隅々まで安心して暮らせ、暇には月花を楽しみ、学ぶこともできる。そのうえで「貧福ともに天命なれば、此の身このまゝにて足る」という教えを挙げます。足るを知ることは我慢ではなく、すでに与えられているものに気づくことだ、という捉え方です。逆に分限を知らずおごり、人の痛みを知らないことを悲しむべきこととします。当たり前の安全や物流に支えられて商いが成り立っていることを思い出させる一節です。

この章句が説くこと

国恩分限足る奢り天命

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