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政談 / 諸役人に器量を選ふ事

されば人を知ると云ふは如何樣にして知るかと云ふに、其の人を一日廻り居たれはとて其人の器量は知れぬことなり、然かるに愚かなる人は大將の目かねと云ひて、名將は一目見ても器量ある人を知るなとゝ云ふやうにて褒むるなり、夫を愚かなる人は眞と心得、己れの眼力にて器量ある人を見出さんとす、ト者か神道にあらすんは知れぬ事なり、其の仔細は人になし、ちか身の器量如何なることに得手なりや、譬へはさむらい大將ならは昔甲州にて名を得たる馬塲美濃かやうなりや、內藤修理かやうなりや、山縣三郞兵衛かやうなりや、高坂彈正左衛門かやうなりや、古漢の代の季慮かやうなりや、程不識かやうなるかと問はんとき、其の人己れか自身の器量を自身とさけすみて見んに全く知れまじ、其の仔細は如何なることぞと云ふに、ついにいりなと云ふものをして見ねは自身にても知れぬなり、自身にてさへ知られぬことを外より見て知るべきやう曾て之なき事なり、

新字:されば人を知ると云ふは如何様にして知るかと云ふに、其の人を一日廻り居たれはとて其人の器量は知れぬことなり、然かるに愚かなる人は大将の目かねと云ひて、名将は一目見ても器量ある人を知るなとゝ云ふやうにて褒むるなり、夫を愚かなる人は真と心得、己れの眼力にて器量ある人を見出さんとす、ト者か神道にあらすんは知れぬ事なり、其の仔細は人になし、ちか身の器量如何なることに得手なりや、譬へはさむらい大将ならは昔甲州にて名を得たる馬塲美濃かやうなりや、内藤修理かやうなりや、山県三郎兵衛かやうなりや、高坂弾正左衛門かやうなりや、古漢の代の季慮かやうなりや、程不識かやうなるかと問はんとき、其の人己れか自身の器量を自身とさけすみて見んに全く知れまじ、其の仔細は如何なることぞと云ふに、ついにいりなと云ふものをして見ねは自身にても知れぬなり、自身にてさへ知られぬことを外より見て知るべきやう曽て之なき事なり、

書き下し

されば人を知ると云ふは如何様にして知るかと云ふに、其の人を一日廻り居たれはとて其人の器量は知れぬことなり、然かるに愚かなる人は大将の目かねと云ひて、名将は一目見ても器量ある人を知るなとゝ云ふやうにて褒むるなり、夫を愚かなる人は真と心得、己れの眼力にて器量ある人を見出さんとす、ト者か神道にあらすんは知れぬ事なり、其の仔細は人になし、ちか身の器量如何なることに得手なりや、譬へはさむらい大将ならは昔甲州にて名を得たる馬塲美濃かやうなりや、内藤修理かやうなりや、山県三郎兵衛かやうなりや、高坂弾正左衛門かやうなりや、古漢の代の季慮かやうなりや、程不識かやうなるかと問はんとき、其の人己れか自身の器量を自身とさけすみて見んに全く知れまじ、其の仔細は如何なることぞと云ふに、ついにいりなと云ふものをして見ねは自身にても知れぬなり、自身にてさへ知られぬことを外より見て知るべきやう曽て之なき事なり、

現代語訳

では人を知るとはどのようにして知るのかといえば、その人と一日中一緒にいたからといって、その人の器量はわからないものである。ところが愚かな人は「大将の目利き」と言って、名将は一目見ただけで器量のある人を見抜く、などと褒めそやす。それを愚かな人は本当だと思い込み、自分の眼力で器量のある人を見出そうとする。そんなことは占い師か神通力でもなければできないことだ。その理由は人に尋ねるまでもない。わが身の器量がどんなことに長けているか、たとえば侍大将なら、昔甲州(武田家)で名を挙げた馬場美濃守のようか、内藤修理のようか、山県三郎兵衛のようか、高坂弾正左衛門のようか、古く漢の時代の李広(底本「季慮」)のようか、程不識のようか、と問われたとき、その人が自分の器量を自分で推し量ってみても、まったくわからないだろう。それはなぜかといえば、結局実際にその場に入ってやってみなければ、自分でもわからないからである。自分自身にさえわからないことを、外から見て知ることなどできるはずがない。

解説

人を一目で見抜く「名将の目利き」という通念を、徂徠は真っ向から否定する。武田家の馬場・内藤・山県・高坂、漢の李広・程不識といった型の違う名将を並べ、自分がどの型かは本人ですら実際にやってみるまでわからないと論じる。本人にわからないものを他人が外から見抜けるはずがない、という論理は明快である。面接や第一印象で人の適性を断じがちな採用・配置の現場に対し、適性は実地の仕事の中でしか現れないという、今日の人材論にも通じる警告になっている。

この章句が説くこと

人材器量目利き適性採用政談

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