呂氏春秋 / 任地①
后稷曰:子能以窐為突乎?子能藏其惡而揖之以陰乎?子能使吾士靖而甽浴土乎?子能使保溼安地而處乎?子能使雚夷毋淫乎?子能使子之野盡為泠風乎?子能使槁數節而莖堅乎?子能使穗大而堅、均乎?子能使粟圜而薄糠乎?子能使米多沃而食之彊乎?無之若何?
新字:后稷曰:子能以窐為突乎?子能蔵其悪而揖之以陰乎?子能使吾士靖而甽浴土乎?子能使保溼安地而処乎?子能使雚夷毋淫乎?子能使子之野尽為泠風乎?子能使槁数節而茎堅乎?子能使穗大而堅、均乎?子能使粟圜而薄糠乎?子能使米多沃而食之彊乎?無之若何?
書き下し
后稷曰く、子能く窐を以て突と為すか。子能く其の惡を藏して之を揖むるに陰を以てするか。子能く吾が土をして靖めて土を甽浴せしむるか。子能く保溼して地を安んじて處らしむるか。子能く雚夷をして淫すること毋からしむるか。子能く子の野をして盡く泠風を為さしむるか。子能く藁をして數節にして莖堅ならしむるか。子能く穗をして大にして堅さ均しからしむるか。子能く粟をして圜くして糠を薄からしむるか。子能く米をして多く沃にして、之を食いて彊からしむるか。之を為すは若何。
現代語訳
后稷が言う。あなたは低い土地を高く盛り上げる(窐を突にする)ことができるか。乾いた悪い土を覆い直し、水気(陰)を与えて潤すことができるか。わが田の土を落ち着かせ、溝(甽)を作って水を流し土を洗い清めることができるか。土の湿りを保って地力を安定させ落ち着かせることができるか。沢の葦のような雑草をはびこらせないようにできるか。自分の田をすみずみまで穀物を実らせる和風(泠風)が通うようにできるか。稲の茎を節多く丈夫に育てられるか。穂を大きく、実のかたさをそろえられるか。粟の粒を丸くふっくらさせ、外皮(糠)を薄くできるか。米を実り豊かにし、食べて歯ごたえのあるものにできるか。これらを成しとげるにはどうすればよいか。
解説
任地(地に任ず)篇は、農業の始祖后稷が畳みかけるように投げかける一連の問いで始まります。低地を高くならす、乾いた土を潤す、溝で水を通して土を清める、湿りを保つ、雑草を抑える、良い風を通す、茎を丈夫に穂を大きく実らせる――理想の耕作が達成すべき課題が次々に列挙されます。これは農本思想における耕作の要諦を、土づくりから収穫までの到達目標として体系的に示したものです。土壌・水・雑草・通風・作物の状態を一つひとつ問う姿勢は、経験を言語化し技術として共有しようとする態度であり、栽培管理を体系的に考える現代の農学にもつながる先駆的な発想といえます。
この章句が説くこと
任地后稷土づくり甽保湿耕作の要諦
関連する章句
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呂氏春秋・任地⑤年有れば土を瘞り、年無きも土を瘞る。民時を失うこと無ければ、之をして下を治めしむること無し。貧富の利器を知れば、皆時至りて作し、時を渴して止む。是を以て老弱の力盡く起こす可し。其の日を用うること半ばにして、其の功倍せしむ可し。事を知らざる者は、時未だ至らずして之に逆らい、時既に往きて之を慕う。時に當たりて之を薄んじ、其の民をして之に郤らわしめ、民既に郤らえば、乃ち良時を以て慕う。此れ事に從うの下なり。事を操れば則ち苦しみ、高下を知らざれば、民は乃ち逾處す。稑禾を種うれども稑と為らず、重禾を種うれども重と為らず。是を以て粟少くして功を失う。
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呂氏春秋・任地③上田は畝を棄て、下田は甽を棄つ。五耕五耨、必ず審らかにして以て其の深殖の度を盡くせば、陰土必ず得、大草生ぜず、又螟蜮無し。今茲は美禾あり、來茲は美麥あり。是を以て六尺の耜は、畝を成す所以なり。其の博さ八寸は、甽を成す所以なり。耨の柄は尺、此れ其の度なり。其の耨六寸は、稼を閒つる所以なり。地肥えしむ可く、又棘せしむ可し。人肥やすに必ず澤を以てすれば、苗をして堅に地をして隙あらしむ。人耨るに必ず旱を以てすれば、地をして肥えしめ土をして緩ならしむ。
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呂氏春秋・辯圡③稼は塵より生じ、而して堅きに殖せんことを欲する者なり。其の種を愼んで、數ならしむること勿く、亦た疏ならしむること勿れ。其の土を施すに於いて、足らざらしむること無く、亦た餘り有らしむること無かれ。熟して有た耰するや、必ず其の培いに務む。其の耰するや稹かならんとす。稹かなる者は、其の生ずるや必ず先だてばなり。其の土を施すや均しからんとす。均しき者は、其の生ずるや必ず堅ければなり。是を以て畮は廣くして以て平らかなれば、則ち本を喪わず。莖、地に生ずる者は、之を五分するに地を以てす。莖の生ずるや行有り。故に遫く長ず。弱相害せず。故に遫く大なり。衡行必ず得、縱行必ず術げ、其の行を正して、其の風を通じ、必ず中央に夬して、帥いて泠風を為す。苗、其の弱きや孤ならんことを欲し、其の長ずるや相與に居らんことを欲し、其の熟するや相扶けんことを欲す。是の故に三以て族と為せば、乃ち粟多し。
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呂氏春秋・辯圡④凡そ禾の患いは、俱に生ぜずして俱に死するなり。是を以て先づ生ずる者は美米、後に生ずる者は粃と為る。是の故に其の耨ずるや、其の兄を長ぜしめて其の弟を去る。肥に樹うるには、扶疏ならしむること無く、墝に樹うるには、專生して族居せしむるを欲せず。肥にして扶疏なれば則ち粃多く、墝にして專居すれば則ち多く死る。稼を知らざる者は、其の耨するや、其の兄を去りて其の弟を養い、其の粟を収めずして其の粃を収む。上下安からざれば、則ち禾多く死る。土を厚くすれば則ち孽通ぜず、土を薄くすれば則ち蕃轓にして發せず。壚埴冥色にして、剛土に柔種し、免め耕し匿を殺れば、農事をして得しむ。
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呂氏春秋・上農②后稷曰く、「耕織を務むる所以の者は、以て本教と為せばなり。」是の故に天子親ら諸侯を率いて帝籍田に耕し、大夫・士皆功業有り。是の故に時の務に當りてや、農の國に見えざるは、以て民に地產を尊ぶを教うればなり。后妃は九嬪を率いて郊に蠶し、公田に桑す。是を以て春秋冬夏皆麻枲絲繭の功有るは、以て婦教を力むればなり。是の故に丈夫は織らずして衣、婦人は耕さずして食し、男女功を貿えて以て長生す。此れ聖人の制なり。故に時を敬しみ日を愛し、老ゆるに非ざれば休まず、疾むに非ざれば息わず、死するに非ざれば舍かず。
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呂氏春秋・任地②凡そ耕の大方は、力ある者は柔ならんと欲し、柔なる者は力あらんと欲す。息する者は勞せんと欲し、勞する者は息せんと欲す。棘せたる者は肥えんと欲し、肥えたる者は棘せんと欲す。急なる者は緩ならんと欲し、緩なる者は急ならんと欲す。溼なる者は燥ならんと欲し、燥なる者は溼ならんと欲す。