呂氏春秋 / 愼大②
桀為無道,暴戾頑貪,天下顫恐而患之,言者不同,紛紛分分,其情難得。干辛任威,凌轢諸侯,以及兆民,賢良鬱怨。殺彼龍逢,以服群凶。眾庶泯泯,皆有遠志,莫敢直言,其生若驚。大臣同患,弗周而畔。桀愈自賢,矜過善非,主道重塞,國人大崩。湯乃惕懼,憂天下之不寧,欲令伊尹往視曠夏,恐其不信,湯由親自射伊尹。伊尹奔夏三年,反報于亳,曰:“桀迷惑於末嬉,好彼琬、琰,不恤其眾,眾志不堪,上下相疾,民心積怨,皆曰‘上天弗恤,夏命其卒’。”湯謂伊尹曰:“若告我曠夏盡如詩。”湯與伊尹盟,以示必滅夏。伊尹又復往視曠夏,聽於末嬉。末嬉言曰:“今昔天子夢西方有日,東方有日,兩日相與鬥,西方日勝,東方日不勝。”伊尹以告湯。商涸旱,湯猶發師,以信伊尹之盟,故令師從東方出於國,西以進。未接刃而桀走,逐之至大沙,身體離散,為天下戮,不可正諫,雖後悔之,將可奈何?湯立為天子,夏民大說,如得慈親,朝不易位,農不去疇,商不變肆,親郼如夏。此之謂至公,此之謂至安,此之謂至信。盡行伊尹之盟,不避旱殃,祖伊尹世世享商。
新字:桀為無道,暴戻頑貪,天下顫恐而患之,言者不同,紛紛分分,其情難得。干辛任威,凌轢諸侯,以及兆民,賢良鬱怨。殺彼竜逢,以服群凶。眾庶泯泯,皆有遠志,莫敢直言,其生若驚。大臣同患,弗周而畔。桀愈自賢,矜過善非,主道重塞,国人大崩。湯乃惕懼,憂天下之不寧,欲令伊尹往視曠夏,恐其不信,湯由親自射伊尹。伊尹奔夏三年,反報于亳,曰:“桀迷惑於末嬉,好彼琬、琰,不恤其眾,眾志不堪,上下相疾,民心積怨,皆曰‘上天弗恤,夏命其卒’。”湯謂伊尹曰:“若告我曠夏尽如詩。”湯与伊尹盟,以示必滅夏。伊尹又復往視曠夏,聴於末嬉。末嬉言曰:“今昔天子夢西方有日,東方有日,両日相与鬥,西方日勝,東方日不勝。”伊尹以告湯。商涸旱,湯猶発師,以信伊尹之盟,故令師従東方出於国,西以進。未接刃而桀走,逐之至大沙,身体離散,為天下戮,不可正諫,雖後悔之,将可奈何?湯立為天子,夏民大説,如得慈親,朝不易位,農不去疇,商不変肆,親郼如夏。此之謂至公,此之謂至安,此之謂至信。尽行伊尹之盟,不避旱殃,祖伊尹世世享商。
書き下し
桀、無道を為し、暴戻頑貪、天下顫え恐れて之を患う。言う者同じからず、紛紛分分として、其の情得難し。干辛、威に任せ、諸侯を凌轢して、以て兆民に及び、賢良鬱怨す。彼の龍逢を殺して、以て群凶を服す。衆庶泯泯として、皆遠志を有し、敢て直言する莫く、其の生は驚くが若し。大臣患いを同じくして、周からずして畔く。桀愈々自ら賢として、過ちを矜り非を善とす。主道重塞し、國人大いに崩る。湯乃ち惕懼し、天下の寧からざるを憂え、伊尹をして往きて曠夏を視しめんと欲するも、其の信ぜられざるを恐れ、湯由りて親自ら伊尹を射る。伊尹、夏に奔りて三年、反りて亳に報じて曰く、「桀は末嬉に迷惑し、彼の琬琰を好みて、其の衆を恤えず、衆志堪えず、上下相疾み、民心怨みを積み、皆曰く、『上天恤まず、夏の命其れ卒きん。』」湯、伊尹に謂いて曰く、「若の我に曠夏を告ぐるは、盡く詩の如し。」湯と伊尹と盟いて、以て必ず夏を滅ぼさんことを示す。伊尹又復た往きて曠夏を視んとし、末嬉に聽く。末嬉言いて曰く、「今昔、天子、西方に日有り、東方に日有り、兩日相與に鬭う、西方の日勝ち、東方の日勝たざるを夢む。」伊尹以て湯に告ぐ。商、涸旱するも、湯猶ほ師を發して、以て伊尹の盟いを信にせんとす。故に師をして東方從りして國の西に出でて、以て進ましむ。未だ刃を接せずして桀走る。之を逐い大沙に至る、身體離散し、天下の戮と為りて、正諫す可からず。後に之を悔ゆと雖も、將た奈何す可き。湯立ちて天子と為るや、夏の民大いに説び、慈親を得たるが如し。朝は位を易えず、農は疇を去らず、商は肆を變ぜず、郼に親しむこと夏のごとし。此を之れ至公と謂い、此を之れ至安と謂い、此を之れ至信と謂う。盡く伊尹の盟いを行い、旱殃を避けず、伊尹を祖して世世商を享せしむ。
現代語訳
夏の桀王は無道で、暴虐強欲だったので、天下は震え恐れてこれを憂えた。桀は佞臣の干辛に威を振るわせて諸侯や万民を踏みにじり、賢者は鬱屈して怨んだ。桀は諫臣の龍逢を殺し、逆らう者を抑えつけたので、民衆は乱れ亡び、皆遠く逃れる志を抱きながらも直言できず、その暮らしは怯えおののくばかりだった。殷の湯はこれを憂え、伊尹を夏へ遣わして内情を探らせようとしたが、夏に信じてもらえぬのを恐れ、わざと自ら伊尹を射て罪を負わせる芝居を打った。伊尹は夏に三年潜入し、亳へ戻って、桀が寵妃末嬉に溺れ民を顧みず、上下が憎み合い民心が怨みを積んでいると報告した。湯は伊尹と盟い、必ず夏を滅ぼすと誓った。伊尹が再び夏の様子を探ると、末嬉は「二つの太陽が争い西の日が勝つ夢を天子が見た」と語った。商は旱魃だったが、湯は盟約を守るため軍を発し、東から出て西へ進ませた。刃を交える前に桀は逃げ、大沙まで追われて身は離散し天下の刑戮となった。湯が天子となると夏の民は慈しみ深い親を得たように喜び、朝廷も農も商も安んじて殷になじんだ。これを至公・至安・至信という。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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説苑・權謀湯桀を伐たんと欲す。伊尹曰く、「請ふ貢職を阻絕して以て其の動くを觀ん」と。桀怒り、九夷の師を起して以て之を伐たんとす。伊尹曰く、「未だ可ならず。彼尚ほ猶ほ能く九夷の師を起す。是れ罪我に在るなり」と。湯乃ち罪を謝し請服し、復た貢職を入る。明年、又た貢職を供せず。桀怒り、九夷の師を起さんとするも、九夷の師起らず。伊尹曰く、「可なり」と。湯乃ち師を興し、伐ちて之を殘す。桀を南巢氏に遷す。
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呂氏春秋・簡選②殷湯は、良車七十乘、必死六千人、戊子を以て郕に戰い、遂に推移・大犧を禽にし、鳴條自り登り、乃ち巢門に入り、遂に夏を有つ。桀既に奔走す。是に於て大いに仁慈を行い、以て黔首を恤む。桀の事に反し、其の賢良を遂げしめ、民の喜ぶ所に順う。遠近之に歸し、故に天下に王たり。
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呂氏春秋・古樂⑪殷湯、位に即きしとき、夏、無道を為し、萬民を暴虐し、諸侯を侵削し、軌度を用いず、天下之を患う。湯、是に於て六州を率いて以て桀の罪を討ず。功名大いに成り、黔首安寧す。湯乃ち伊尹に命じて大護を作為し、晨露を歌い、九招・六列を修せしめて、以て其の善を見わす。
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呂氏春秋・先識②夏の太史令終古、其の圖法を出だし、執りて之に泣く。夏桀迷惑して、暴亂愈々甚だし。太史令終古乃ち出奔して商に如く。湯喜びて諸侯に告げて曰く、「夏王無道にして、百姓を暴虐し、其の父兄を窮しめ、其の功臣を恥かしめ、其の賢良を輕んじ、義を棄てて讒を聽き、衆庶咸怨む。守法の臣、自ら商に歸せり。」
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荀子・解蔽篇昔、人君の蔽われし者は、夏の桀・殷の紂是れなり。桀は末喜・斯観に蔽われて、関竜逢を知らず、以て其の心を惑わし、其の行いを乱る。紂は妲己・飛廉に蔽われて、微子啓を知らず、以て其の心を惑わし、其の行いを乱る。故に群臣は忠を去りて私に事え、百姓は怨み非りて用いられず、賢良は退き処りて隠れ逃る。此れ其の九牧の地を喪いて、宗廟の国を虚しくせし所以なり。桀は鬲山に死し、紂は赤旆に県らる。身は先に知らず、人も又た之を諫むる莫し。此れ蔽塞の禍なり。成湯は夏桀に鑒みて、故に其の心を主として慎みて之を治む。是を以て能く長く伊尹を用いて、身、道を失わず。此れ其の夏に代わりて王たり九有を受けし所以なり。文王は殷紂に監みて、故に其の心を主として慎みて之を治む。是を以て能く長く呂望を用いて、身、道を失わず。此れ其の殷に代わりて王たり九牧を受けし所以なり。遠方も其の珍を致さざるは莫し。故に目は備色を視、耳は備声を聴き、口は備味を食らい、形は備宮に居り、名は備号を受け、生ければ則ち天下歌い、死すれば則ち四海哭す。夫れ是れを之れ至盛と謂う。詩に曰く、鳳凰は秋秋たり、其の翼は干の若く、其の声は簫の若し。鳳有り凰有り、帝の心を楽しましむ、と。此れ蔽われざるの福なり。
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荘子・譲王湯将に桀を伐たんとす。卞随(べんずい)に因りて謀る。卞随曰く、「吾が事に非ざるなり」と。湯曰く、「孰(たれ)か可なる」と。曰く、「吾は知らざるなり」と。湯又た瞀光(ぼうこう)に因りて謀る。瞀光曰く、「吾が事に非ざるなり」と。湯曰く、「孰か可なる」と。曰く、「吾は知らざるなり」と。湯曰く、「伊尹は何如」と。曰く、「強力にして垢(はじ)を忍ぶ。吾は其の他を知らざるなり」と。湯遂に伊尹と与に桀を伐つを謀る。