呂氏春秋 / 安死③
君之不令民,父之不孝子,兄之不悌弟,皆鄉里之所釜(鬲瓦)者而逐之,憚耕稼采薪之勞,不肯官人事,而祈美衣侈食之樂,智巧窮屈,無以為之,於是乎聚群多之徒,以深山廣澤林藪,扑擊遏奪,又視名丘大墓葬之厚者,求舍便居,以微抇之,日夜不休,必得所利,相與分之。夫有所愛所重,而令姦邪盜賊寇亂之人卒必辱之,此孝子忠臣親父交友之大事。堯葬於穀林,通樹之;舜葬於紀市,不變其肆;禹葬於會稽,不變人徒;是故先王以儉節葬死也,非愛其費也,非惡其勞也,以為死者慮也。
新字:君之不令民,父之不孝子,兄之不悌弟,皆鄉里之所釜(鬲瓦)者而逐之,憚耕稼采薪之労,不肯官人事,而祈美衣侈食之楽,智巧窮屈,無以為之,於是乎聚群多之徒,以深山広沢林藪,扑擊遏奪,又視名丘大墓葬之厚者,求舎便居,以微抇之,日夜不休,必得所利,相与分之。夫有所愛所重,而令姦邪盗賊寇乱之人卒必辱之,此孝子忠臣親父交友之大事。堯葬於穀林,通樹之;舜葬於紀市,不変其肆;禹葬於会稽,不変人徒;是故先王以倹節葬死也,非愛其費也,非悪其労也,以為死者慮也。
書き下し
君の不令の民、父の不孝の子、兄の不悌の弟、皆郷里の釜䰛して之を逐わんとする所の者にして、耕稼采薪の勞を憚り、肯て人事を官めず。而して美衣侈食の樂しみを祈め、智巧窮屈し、以て之を為す無し。是に於てか群多の徒を聚め、深山廣澤林藪を以て、扑擊遏奪し、又名丘大墓の葬ることの厚き者を視れば、舍を求めて便居し、以て微かに之を抇り、日夜休まず、必ず利する所を得、相與に之を分かつ。夫れ愛する所重んずる所有り、而も姦邪盜賊寇亂の人をして卒に必ず之を辱めしむるは、此れ孝子忠臣親父交友の大事なり。堯は穀林に葬むられ、通じて之に樹え、舜は紀市に葬られ、其の肆を變ぜず、禹は會稽に葬られ、人徒を變ぜず。是の故に先王の儉節を以て死を葬むるや、其の費を愛しむに非ざるなり、其の勞を惡むに非ざるなり。以て死者の為に慮るなり。
現代語訳
君主にとっての不良の民、父にとっての不孝の子、兄にとって従順でない弟、これらはみな郷里で食器を投げ捨てて追い出そうとされる者たちで、耕作や薪取りの労苦を嫌い、まともに勤めようとせず、美服や贅沢な食事の楽しみを求め、知恵才覚も尽き果て、それを手に入れる手立てがない。そこで大勢の徒党を集め、深山や広い沢、林や藪を根城に、襲撃し掠奪する。さらに名高い丘や大きな墓で豪華に葬った者を見つけると、近くに仮住まいを求め、ひそかに掘り進み、昼夜休まず、必ず利するものを手に入れて、互いに分け合う。そもそも愛し大切にする者の亡骸を、盗賊や兵乱の者に必ず辱められるようにしてしまうのは、孝子・忠臣・慈父・親友にとっての一大事である。堯は穀林に葬られ、そのまま木を植え、舜は紀市に葬られ、市の店を移させず、禹は会稽に葬られ、人夫の生活を変えさせなかった。だから先王が倹約して死者を葬ったのは、費用を惜しんだのでも、労力を嫌ったのでもなく、死者のために考えたからである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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呂氏春秋・安死④先王の惡む所は、惟だ死者の辱めなり。發かるれば則ち必ず辱めらる、儉なれば則ち發かれず。故に先王の葬は、必ず儉にし、必ず合、必ず同なり。何をか合と謂い、何をか同と謂う。山林に葬れば則ち山林に合し、阪隰に葬れば則ち阪隰に同ず。此を之れ人を愛すと謂う。夫れ人を愛する者は衆くして、人を愛するを知る者は寡し。故に宋未だ亡びずして東冢抇られ、齊未だ亡びずして莊公の冢抇らる。國安寧なれども猶ほ此くの若し。又況んや百世の後にして國已に亡ぶるをや。故に孝子・忠臣・親父・交友、此に察ぜざる可からざるなり。夫れ之を愛して反て之を危うくすとは、其れ此の謂か。詩に曰く、「敢て暴虎せず、敢て馮河せず、人、其の一を知り、其の他を知るもの莫し。」此れ鄰類を知らざるを言うなり。故に反て以て相非とし、反て以て相是とす。其の非とする所は、方に其の是とする所なり。其の是とする所は、方に其の非とする所なり。是非未だ定まらずして、喜怒鬭爭、反って用を為すなり。吾鬭いを非とせず、爭いを非とせずして、鬭う所以を非とし、爭う所以を非とす。故に凡そ鬭爭とは、是非已に定まるの用なり。今多く先づ其の是非を定めずして、先づ疾く鬭爭す。此れ惑いの大なる者なり。
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呂氏春秋・節喪③古の人、廣野深山に藏して安んぜし者有り。珠玉國寶の謂に非ざるなり。葬は藏ぜざる可からざるなり。葬淺ければ則ち狐狸之を抇り、深ければ則ち水泉に及ぶ。故に凡そ葬は必ず高陵の上に於いてし、以て狐狸の患、水泉の溼を避く。此れ則ち善なり、而れども姦邪・盜賊・寇亂の難を忘るるは、豈に惑わざらんや。之を譬うれば、瞽師の柱を避くるが若し、柱を避けて疾く杙に觸るなり。狐狸・水泉・姦邪・盜賊・寇亂の患いは、此れ杙の大なる者なり。慈親孝子、之を避くる者は、葬の情を得たり。棺槨を善くするは、螻蟻・蛇蟲を避くる所以なり。今、世俗は大いに亂れ、人主は愈々侈にして、其の葬は則ち心死者の為に慮るに非ざるなり。生者以て相矜尚するなり。侈靡なる者は以て榮と為し、節儉なる者は以て陋と為し、死に便ずるを以て故と為さずして、徒らに生者の誹譽を以て務と為す、此れ慈親孝子の心に非ざるなり。父死すと雖も、孝子の之を重んずること怠らず、子死すと雖も、慈親の之を愛すること懈らず。夫れ愛する所重んずる所のものを葬るに、生者の甚だ欲する所を以てす。其の以て之を安んずるや、之を若何せんや。
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呂氏春秋・節喪④民の利に於けるや、流矢を犯し、白刃を蹈み、血を渉り肝を抽き、以て之を求む。野人の聞くこと無き者は、親戚・兄弟・知交に忍んで以て利を求む。今此の危き無く、此の醜無くして、其の利為るは甚だ厚く、車に乘り肉を食らい、澤は子孫に及べば、聖人と雖も猶ほ禁ずること能わず、而るを況んや亂國に於いてをや。國彌々大に、家彌々富めば、葬彌々厚く、含珠鱗施・玩好貨寶・鍾鼎壺濫・轝馬衣被戈劍、其れ數うるに勝う可からず。諸々の生を養うの具、從えざる者無く、題湊の室、棺槨數襲、積石積炭、以て其の外を環らす。姦人之を聞き、傳えて以て相告ぐ。上以て威を嚴にし罪を重くして、之を禁ずと雖も、猶は止む可からず。且つ死者彌々久しくなれば、生者彌々疏し。生者彌々疏ければ、則ち守る者彌々怠る。守る者彌々怠りて、葬器故の如くなれば、其の勢い固より安からず。世俗の喪を行うに、之を載するに大輴を以てし、羽旄旌旗雲の如く、僂翣以て之を督し、珠玉以て之に備え、黼黻文章以て之を飭り、紼を引く者左右萬人、以て之を行い、軍制を以て之を立て、然る後に可なり。此を以て世に觀せば、則ち美なり侈なり。此を以て死の為にすれば、則ち不可なり。苟しくも死に便ならば、則ち國を貧しくし民を勞すと雖も、若の慈親孝子なる者の為すを辭せざる所なり。
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呂氏春秋・安死①世の丘壟を為るや、其の高大なること山の若く、其の之に樹うること林の若く、其の闕庭を設け、宮室を為り、賓阼を造るや都邑の若し。此を以て世に觀し、富を示すは則ち可なり。此を以て死の為にするは、則ち不可なり。夫れ死は、其の萬歲を視ること猶ほ一瞚のごときなり。人の壽は、之を久しくするも百を過ぎず、中壽は六十を過ぎず。百と六十とを以て無窮なる者の慮りを為せば、其の情は必ず相當らず。無窮を以て死者の慮りを為せば、則ち之を得ん。
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呂氏春秋・節喪②凡そ天地の間に生ずるものは、其れ必ず死有りて、免れざる所なり。孝子の其の親を重んずるや、慈親の其の子を愛するや、肌骨に痛むは、性なり。重んずる所、愛する所、死して之を溝壑に棄つるは、人の情、為すに忍びざるなり。故に死を葬むるの義有り。葬とは、藏なり。慈親孝子の慎む所なり。之を慎しむ者は、生人の心を以て死者の為に慮る。生人の心を以て死者の為に慮るや、動かすこと無きに如くは莫く、發すること無きに如くは莫し。發すること無く動かすこと無きは、利す可きもの有ること無きに如くは莫し。則ち此を之れ重閉と謂う。
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呂氏春秋・安死②今此に人有り。石銘を為り、之を壟上に置きて、「此の其の中の物、珠玉玩好・財物寶器を具うること甚だ多し、抇らざる可からず、之を抇れば必ず大いに富み、世世車に乘り肉を食らわん。」と曰ば、人必ず相與に之を笑い、以て大いに惑えりと為さん。世の厚葬するや、此に似たる有り。古自り今に及ぶまで、未だ亡びざるの國有らざるなり。亡びざるの國無ければ、是れ抇られざるの墓無きなり。耳目の聞見する所を以てすれば、齊・荊・燕は嘗て亡び、宋・中山は已に亡び、趙・魏・韓皆亡びたり。其れ皆故國なり。此れ自り以上の者は亡國勝げて數う可からず。是の故に大墓は抇られざる無きなり。而るに世皆爭いて之を為す。豈に悲しからずや。