呂氏春秋 / 音初④
有娀氏有二佚女,為之九成之臺,飲食必以鼓。帝令燕往視之,鳴若謚隘。二女愛而爭(摶)〔搏〕之,覆以玉筐,少選,發而視之,燕遺二卵,北飛,遂不反,二女作歌,一終曰「燕燕往飛」,實始作為北音。
新字:有娀氏有二佚女,為之九成之台,飲食必以鼓。帝令燕往視之,鳴若謚隘。二女愛而争(摶)〔搏〕之,覆以玉筐,少選,発而視之,燕遺二卵,北飛,遂不反,二女作歌,一終曰「燕燕往飛」,実始作為北音。
書き下し
有娀氏に二佚女有り、之に九成の臺を為り、飲食には必ず鼓を以てす。帝、燕をして往きて之を視しむ。鳴くこと謚隘の若し。二女愛して爭いて之を搏らえ、覆うに玉筐を以てす。少選ありて、發いて之を視れば、燕二卵を遺して、北に飛び、遂に反らず。二女、歌一終を作りて、曰く、「燕燕往き飛ぶ。」實に始めて北音を作為す。
現代語訳
有娀氏に二人の美しい娘がいた。彼女らのために九層の高台を作り、飲食のときには必ず鼓を鳴らした。天帝が燕を遣わして彼女らを見に行かせると、その鳴き声は小刻みな笑い声のようであった。二人の娘は可愛がって争ってこれを捕らえ、玉の箱で覆った。しばらくして開けて見ると、燕は二つの卵を残して北へ飛び去り、そのまま戻らなかった。二人の娘は歌を作り、その一篇に「燕よ燕よ飛び去った」と歌った。これが実に北方の音楽(北音)の始まりである。
解説
この段は、北方の音楽の起源を伝える説話です。有娀氏の二人の娘が捕らえた燕が卵を残して北へ去り、その別れを惜しんで歌った「燕燕往飛」の一句が北音の始まりとされます。この燕の卵の話は、殷の始祖誕生の神話とも響き合う古い伝承です。ここでも音楽は、去りゆくものへの惜別の情から生まれるものとして描かれます。四方の音楽の起源をいずれも人の情に求める一連の説話は、音楽が心の動きの表れであるという思想を一貫して貫いています。別れや喪失の感情が表現を生むという見方は、感情と芸術の結びつきを考える現代にも通じます。
この章句が説くこと
有娀氏北音燕燕往飛九成之台音楽の起源惜別
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