呂氏春秋 / 古樂②
昔古朱襄氏之治天下也,多風而陽氣畜積,萬物散解,果實不成,故士達作為五弦〔之〕瑟,以(采)〔來〕陰氣,以定群生。
新字:昔古朱襄氏之治天下也,多風而陽気畜積,万物散解,果実不成,故士達作為五弦〔之〕瑟,以(采)〔来〕陰気,以定群生。
書き下し
昔古、朱襄氏の天下を治むるや、風多くして陽氣畜積し、萬物散解し、果實成らず。故に士達、五弦の瑟を作為し、以て陰氣を來たし、以て群生を定む。
現代語訳
むかし朱襄氏(炎帝の別名)が天下を治めたとき、風が多く吹いて陽気が積もり、万物は散り落ち、果実が実らなかった。そこで臣の士達が五弦の瑟を作り、その音によって陰気を呼び寄せ、あらゆる生き物を安定させた。
解説
最古の帝王のひとり朱襄氏の時代に、音楽が生まれた由来を語る段です。風ばかり吹いて陽気が過剰になり万物が枯れ実らなくなったとき、臣下の士達が五弦の瑟を作り、その音で陰気を招いて生き物を安んじたといいます。ここでの音楽は娯楽ではなく、乱れた陰陽の気を調え自然の均衡を回復する呪術的・調律的な働きを担っています。音の調和が天地の気に感応するという発想は、この巻を貫く「音楽は天地と通じる」という思想の具体例です。人が自然の不調に働きかけ、調和を取り戻そうとする営みの原初的な姿がここにあり、芸術の起源を自然との交感に見る興味深い伝承といえます。
この章句が説くこと
朱襄氏士達五弦の瑟陰陽の気炎帝音楽の起源
関連する章句
-
呂氏春秋・古樂⑧帝堯立ちて、乃ち質に命じて樂を為らしむ。質乃ち山林谿谷の音に效いて以て歌い、乃ち麋𩊚を以て缶を置いて之を鼓し、乃ち石を拊ち石を擊ち、以て上帝の玉磬の音に象り、以て百獸を致し舞わしむ。瞽叟乃ち五弦の瑟を拌ち、作りて以て十五弦の瑟と為す。
-
呂氏春秋・大樂①音樂の由りて來たる所の者は遠し。度量に生じ、太一に本づく。太一は兩儀を出だし、兩儀は陰陽を出だす。陰陽は變化して、一上一下、合して章を成す。渾渾沌沌として、離るれば則ち復た合い、合えば則ち復た離る。是を天常と謂う。天地は車輪のごとし。終れば則ち復た始まり、極まれば則ち復た反り、咸な當たらざるは莫し。日月星辰、或いは疾く或いは徐ろに、日月は同じからずして、以て其の行を盡くす。四時は代々る興りて、或いは暑く或いは寒く、或いは短かく或いは長く、或いは柔らかく或いは剛し。萬物の出づる所は、太一に造まり、陰陽に化す。萌芽始めて震き、凝寒して以て形す。形體は處有れば、聲有らざるは莫し。聲は和に出で、和は適に出づ。和適、先王樂を定めて、此に由りて生ず。
-
呂氏春秋・古樂⑨之を命づけて大章と曰い、以て上帝を祭る。舜立ち、仰延、乃ち瞽叟の為りし所の瑟を拌ち、之に八弦を益し、以て二十三弦の瑟と為す。帝舜、乃ち質をして九招・六列・六英を修せしめ、以て帝德を明らかにす。
-
呂氏春秋・古樂⑥帝顓頊は若水自り生まれ、實に空桑に處り、乃ち登りて帝と為る。惟れ天に之れ合い、正風乃ち行われ、其の音熙熙淒淒鏘鏘の若し。帝顓頊、其の音を好み、乃ち飛龍をして作りて八風の音に效わしめ、之を命づけて承雲と曰い、以て上帝を祭る。乃ち鱓をして先づ樂倡為らしむ。鱓乃ち偃寢し、其の尾を以て其の腹を鼓す。其の音英英たり。
-
呂氏春秋・大樂③凡そ樂は、天地の和、陰陽の調なり。始めて人を生ぜし者は天なり、人、事とする無し。天、人をして欲有らしむるや、人、求めざるを得ず。天、人をして惡有らしむるや、人、辟けざるを得ず。欲と惡とは天に受けし所なり。人、興るを得ず。變う可からず、易う可からず。世の學ぶ者に、樂を非る者有り、安くに由りて出でしや。
-
呂氏春秋・古樂①樂の由來する所の者は尚しきなり。必ず廢す可からず。節有り侈有り、正有り淫有り。賢者は以て昌え、不肖者は以て亡ぶ。