論語 / 陽貨篇
子曰:「惡紫之奪朱也,惡鄭聲之亂雅樂也,惡利口之覆邦家者。」
新字:子曰:「悪紫之奪朱也,悪鄭声之乱雅楽也,悪利口之覆邦家者。」
書き下し
子曰く、紫の朱を奪うを悪む。鄭声の雅楽を乱すを悪む。利口の邦家を覆す者を悪む。
現代語訳
先生がおっしゃった。「紫(の間色)が朱(の正色)の地位を奪うのを憎む。鄭の国の音楽が正しい雅楽を乱すのを憎む。口のうまい者が国家をひっくり返すのを憎む。」
解説
三つの憎悪が並ぶが、構造は同じである。本物より魅力的な偽物が、本物の場所を奪う。紫は当時の流行色で、正色である朱より人目を引いた。鄭の音楽は雅楽より刺激的で流行した。口の達者な人は、実直な人より説得力がある。どれも競争に勝つのは偽物のほうだ。魅力で選ばれるからである。この構造は現代でも変わらない。分かりやすい主張が、正確だが複雑な主張に勝つ。刺激的な情報が、地味な事実に勝つ。孔子は憎むと言っただけで、対策は述べていない。おそらく対策が無いからだろう。魅力の競争では、本物は勝てない。できるのは、区別がつく人が区別し続けることだけである。憎むという感情の表明も、区別を保つための手段の一つになっている。
この章句が説くこと
紫奪朱偽物魅力区別憎悪
関連する章句
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『洗心洞箚記』卷上・第百八條紫の朱を奪ふを悪み、鄭声の雅楽を乱すを悪み、利口の邦家を覆す者を悪む。今両眼有りて明らかならざる者は、紫を好むこと朱よりも甚だし。両耳有りて聡ならざる者は、鄭を好みて雅を厭ふ。這の心有りて閑かならざる者は、利口に溺れて、忠告直言の人を屏遏す。此れ皆習気情欲を以て良知を蓋ふなり。若し蓋ふ者除かば、則ち良知宛然として出づ。然る後に之を悪むこと聖人と一般なり。否ずんば書史を窮め文章に富むと雖も、猶ほ紫を好み、鄭を好み、利口に溺るるがごとく、未だ嘗て凡俗の人に異ならざるなり。若し人にして下に在れば、則ち必ず徳を亡ふ。上に在れば則ち夫子の戒むる所を免れざるなり。嗚呼、此れ聖人の亀鑑にして、万世誣ひざる者なり。
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