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驢鞍橋 / 卷下

午の極月、夜話の次で曰く、佛法の御政道、如何にしてか御公儀へ訴へ奉らんとありければ、一僧曰く、無理に此方より申し上るとも、あなたより思召より無くんば、用に立つべからず。何とずあなたより召出さるゝ樣な方便有らば然るべしと云ふ。師呵して曰く、夫けなたわけたことを、我前にて能く云はるゝこと也。我旨を知るべからず、是非に於て一命を捨て申し上けんと切れ切つて居る也。誠に云はるゝ物ならば、幽靈に成てなりとも申上け度く思ふ也。そのあなたより思召より玉ふ方便する抔と云ふことに非す。何とあらんとも、是非に申し達せんと云ふ機胸に指張て居る也。我旨を知るべからずと、大に呵し給ふ也。

新字:午の極月、夜話の次で曰く、仏法の御政道、如何にしてか御公儀へ訴へ奉らんとありければ、一僧曰く、無理に此方より申し上るとも、あなたより思召より無くんば、用に立つべからず。何とずあなたより召出さるゝ様な方便有らば然るべしと云ふ。師呵して曰く、夫けなたわけたことを、我前にて能く云はるゝこと也。我旨を知るべからず、是非に於て一命を捨て申し上けんと切れ切つて居る也。誠に云はるゝ物ならば、幽霊に成てなりとも申上け度く思ふ也。そのあなたより思召より玉ふ方便する抔と云ふことに非す。何とあらんとも、是非に申し達せんと云ふ機胸に指張て居る也。我旨を知るべからずと、大に呵し給ふ也。

書き下し

午の極月、夜話の次で曰く、仏法の御政道、如何にしてか御公儀へ訴へ奉らんとありければ、一僧曰く、無理に此方より申し上るとも、あなたより思召より無くんば、用に立つべからず。何とずあなたより召出さるゝ様な方便有らば然るべしと云ふ。師呵して曰く、夫けなたわけたことを、我前にて能く云はるゝこと也。我旨を知るべからず、是非に於て一命を捨て申し上けんと切れ切つて居る也。誠に云はるゝ物ならば、幽霊に成てなりとも申上け度く思ふ也。そのあなたより思召より玉ふ方便する抔と云ふことに非す。何とあらんとも、是非に申し達せんと云ふ機胸に指張て居る也。我旨を知るべからずと、大に呵し給ふ也。

現代語訳

午の年十二月、夜話のついでに言われた。仏法の御政道を、どのようにして御公儀へ訴え申し上げようか、とあったので、一人の僧が言った。無理にこちらから申し上げても、あちらからのお思し召しがなければ、役に立たないでしょう。何とかあちらから召し出されるような方便があればよいでしょう、と言う。師は叱って言われた。そんな愚かなことを、私の前でよく言われるものだ。私の旨を知らないのだろう。ぜひとも一命を捨てて申し上げようと、切れに切っているのである。本当に言えるものなら、幽霊になってでも申し上げたいと思う。そのように、あちらからのお思し召しを得る方便をするなどということではない。どうあろうとも、ぜひ申し達しようという気迫が、胸に張り詰めているのである。私の旨を知らないのだ、と大いにお叱りになった。

解説

仏法による政治の在り方を幕府に訴えたい、と言う正三に、弟子は、こちらから言っても無駄だ、向こうから呼ばれるよう工夫すべきだ、と勧める。正三は激しく叱り、自分は命を捨てても申し上げると覚悟を決めている、幽霊になってでも伝えたい、呼ばれるための策など考えていない、と言う。うまく立ち回ることより、命がけで訴える覚悟こそが大切だ。社会を変えたいという、晩年の正三の強い意志がほとばしる条である。

この章句が説くこと

直訴覚悟社会変革策略仏法政道意志

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