驢鞍橋 / 卷下
因に僧中に向て曰く、皆うつかと心得めさるゝな。去る祈禱者の身上に應してせねば、祈禱もしるしなしと云へり。誠に然るべきこと也。左もあればこそ、賤き者の病には、消災咒一返しても、その儘しるし有る也因に一僧曰く、此の頃、長崎屋の家內の者共、度に皆病ふ也、樣々の業因有りと云ふ。師聞て曰く、病んす、樣々念を造り出し造り出しする間、病んでかへさて叶はす、諸人皆病むべきことなるが、大略にもあるは、不思議に思はるゝ也
新字:因に僧中に向て曰く、皆うつかと心得めさるゝな。去る祈禱者の身上に応してせねば、祈禱もしるしなしと云へり。誠に然るべきこと也。左もあればこそ、賤き者の病には、消災咒一返しても、その儘しるし有る也因に一僧曰く、此の頃、長崎屋の家内の者共、度に皆病ふ也、様々の業因有りと云ふ。師聞て曰く、病んす、様々念を造り出し造り出しする間、病んでかへさて叶はす、諸人皆病むべきことなるが、大略にもあるは、不思議に思はるゝ也
書き下し
因に僧中に向て曰く、皆うつかと心得めさるゝな。去る祈禱者の身上に応してせねば、祈禱もしるしなしと云へり。誠に然るべきこと也。左もあればこそ、賤き者の病には、消災咒一返しても、その儘しるし有る也因に一僧曰く、此の頃、長崎屋の家内の者共、度に皆病ふ也、様々の業因有りと云ふ。師聞て曰く、病んす、様々念を造り出し造り出しする間、病んでかへさて叶はす、諸人皆病むべきことなるが、大略にもあるは、不思議に思はるゝ也
現代語訳
ついでに僧たちに向かって言われた。みな、うっかりと心得られるな。ある祈祷者が、身の上に応じてしなければ、祈祷もしるしがない、と言った。まことにそうあるべきことである。そうであればこそ、身分の低い者の病には、消災咒を一遍唱えても、そのまま効き目があるのである。ついでに一人の僧が言った。近ごろ長崎屋の家の者たちが、たびたびみな病みます。さまざまな業因があると言います。師は聞いて言われた。病むだろう。さまざまな念を造り出し造り出しするので、病んで返さずにはいられない。人々はみな病むはずのことだが、たいていは何ともないのが、不思議に思われる、と。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『驢鞍橋』卷下一日、長水長老云ふ、何某殿子息大病なるに、弔を頼み来る也。如何仕るべきや。師曰く、楞厳咒千坐程誦せば、快く成るべし。総而兵法者抔の弟子に起請を多く書せたる抔は、子孫不吉也。彼れも祖父の代より馬の上手にて、弟子共に起請を多く書せたる末也。その咎と覚えたり。然る間、諸神を請じ下し奉り、報謝に楞厳咒千坐誦せば、大略よかるべしと也。
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『驢鞍橋』卷上一日聚会の次で、一僧去る病体の和尚に向つて云く、悪病抔出でざる様になさるべし。若し悪病出でば、大に人の為めに怨と成るべし。師聞て曰く、扨も詮なき事を云ふ人かな、如何なる病をか受け、如何なる死をかせん。我人知られてこそ因果次第也。従今分別するとも争かあたらんや。唯今修する処にこそ詮議はあれ、後はひつてひり破つても、死にめされよ。只死しても奇麗にもをりないぞ、野に成りとも山に成りとも只捨てめされよと也。
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『驢鞍橋』卷上一日人来て曰く、去る寺の住持仏法嫌ひにて、檀那共の修行するを殊の外ひがみて謗られけるが、終に病者に成られたりと云ふ。師聞て曰、其心にては病者にならては。総して娑婆を分別し居る者は、胸塞り心沈みて病発るべし。修行者もすべ悪ければ、道理に落ちて心沈み、見掛け迄も沈みて見ゆる物也。然るに勇猛心を用ゐて、道理を離れて修する者は、心浮んて見懸け迄、活きて見ゆる物也。折節志無き僧坐に居けるを見て曰、扨も違へる事哉、名利僧の面は死んて見ゆる也。双び居るを比べて見て各別也。
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『驢鞍橋』卷上一日去る医者来て曰く、某今程西の久保に不思議なる病者を請取り、様々療治仕れとも治せす。兎角医術の及ぶ処に非す。なにとぞ御方便有れかしと云ふ。師問て曰、如何様なる病人なりや。彼答て曰、総身より糸筋のやうなる虫出て、外よりひる降り懸り、物を飮食ひする事ならす、昼夜六十日程責められ、半機違ひに成り候とかたる。師聞て曰、扨も扨も不便千万なる事哉。我処に遣はすへし。□取らせんずと也。
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『驢鞍橋』卷上去る処の病者霊気有りとて、弔を頼み来る。師便ち病者の位牌を書き、長水長老□に大衆に命して、下火念誦にて葬例の儀式を作す。其後師の焼香にて一時千巻の心経有り、誦し了るとわつと云つて位牌をつゝ倒し給ふ也。晩に至りて謂衆曰、逆修をも死人になして弔ひたるか能き也。死人に往いて霊気著くべからすと也。
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『驢鞍橋』卷上誠に大病抔受けて大寒大熱して前後も知らず、わつわつと叫ぶやうの苦患を受くる抔は、生きながら我性の地獄の業を感ずる時なるべし。さあればこそ病人後世を願へば、必す無病に成る也。我もこの前は折々地獄に堕ちけるが、最早此比は不落、其故は悪夢を見さる也。又曰、就中今時出家衆は、生きながら地獄に落つべし。無道心にて信施をきられば、さなくとも死後あめうしにはならるへし。御坊主達大事也。