驢鞍橋 / 卷下
一日、去る人來て曰く、眞言宗には、弘法大師より外に大師なし。故に弘法の德、今に勝れたり。是れ眞言の手抦也。又天台傳敎大師より、代々皆大師號也。故に傳敎の威少なし、是れ天台のひけ也と申し來ると云ふ。師聞て曰く、尤のこと也。めつたと請訛なしにする筈に非ずと也。
新字:一日、去る人来て曰く、真言宗には、弘法大師より外に大師なし。故に弘法の徳、今に勝れたり。是れ真言の手抦也。又天台伝教大師より、代々皆大師号也。故に伝教の威少なし、是れ天台のひけ也と申し来ると云ふ。師聞て曰く、尤のこと也。めつたと請訛なしにする筈に非ずと也。
書き下し
一日、去る人来て曰く、真言宗には、弘法大師より外に大師なし。故に弘法の徳、今に勝れたり。是れ真言の手抦也。又天台伝教大師より、代々皆大師号也。故に伝教の威少なし、是れ天台のひけ也と申し来ると云ふ。師聞て曰く、尤のこと也。めつたと請訛なしにする筈に非ずと也。
現代語訳
ある日、ある人が来て言った。真言宗には、弘法大師のほかに大師がいない。だから弘法の徳は今にすぐれている。これは真言の手柄である。また天台は伝教大師から代々みな大師号である。だから伝教の威光が少ない。これは天台の引け目である、と申してきた、と言う。師は聞いて言われた。もっともなことである。むやみに吟味なしにしてよいはずではない、と。
解説
真言宗は弘法大師一人だけが大師と呼ばれるので、その徳が今も際立っているが、天台宗は代々大師号を贈ったので、開祖伝教大師の威光が薄れた、という話に、正三は、もっともだ、むやみに称号を与えるべきではない、と同意する。称号や肩書きを乱発すれば、その価値も、本当に優れた人の威光も薄れる。表彰や役職を安易に増やしがちな組織への、今も通じる指摘である。
この章句が説くこと
称号肩書き乱発価値弘法大師伝教大師
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