驢鞍橋 / 卷下
一日、愕然として曰く、扨てもたわけた物哉。百年先の者は、一人でも無い、皆跡形も無くなりはてたり。然るを忘れて、我も人も少しの事を望み、工み計て居る物也扨ても愚なること哉と也。
書き下し
一日、愕然として曰く、扨てもたわけた物哉。百年先の者は、一人でも無い、皆跡形も無くなりはてたり。然るを忘れて、我も人も少しの事を望み、工み計て居る物也扨ても愚なること哉と也。
現代語訳
ある日、はっとして言われた。さても愚かなものだな。百年前の者は一人もいない。みな跡形もなくなり果てた。それを忘れて、自分も人も、少しのことを望み、工夫や計略ばかりしているものだ。さても愚かなことだな、と。
解説
百年前に生きていた人は、今は誰一人いない、みな跡形もなく消えた、と正三ははっとして言う。それなのに自分も他人も、そのことを忘れて、ささいなことを望み、策を練ってばかりいる、と。人生の短さを思えば、日々の小さな駆け引きや欲望がいかに空しいかが見えてくる。忙しさの中で目先の損得に追われる心に、時間の大きな流れを思い出させる、短くも鋭い一言である。
この章句が説くこと
無常百年人生の短さ駆け引き欲望愚かさ
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