驢鞍橋 / 卷下
一日、酒を好む遁世者を呵して曰く、年久しく異見をし、耻を與ふれとも休まず、扨てもてがい耻知らす哉。其面にて能く我前に出ること也。汝は慥に今度始めての人間と覺えたり。扨て扨て業と云ふ物は、是非に及ばぬ物哉。乍去我方便有り、酒を一石も二石も桶に入れ置き、汝に呑飽くほど呑ませ、僧達を賴み取回して、經咒を誦み、彼の酒を頭から酌懸け酌懸けひた責めに責めて責め殺すほどに、吊ひたらば止むべし。頓て牛込にて吊つてとらすべし。總而修行者はたばこも呑むは惡き也。
新字:一日、酒を好む遁世者を呵して曰く、年久しく異見をし、耻を与ふれとも休まず、扨てもてがい耻知らす哉。其面にて能く我前に出ること也。汝は慥に今度始めての人間と覚えたり。扨て扨て業と云ふ物は、是非に及ばぬ物哉。乍去我方便有り、酒を一石も二石も桶に入れ置き、汝に呑飽くほど呑ませ、僧達を頼み取回して、経咒を誦み、彼の酒を頭から酌懸け酌懸けひた責めに責めて責め殺すほどに、吊ひたらば止むべし。頓て牛込にて吊つてとらすべし。総而修行者はたばこも呑むは悪き也。
書き下し
一日、酒を好む遁世者を呵して曰く、年久しく異見をし、耻を与ふれとも休まず、扨てもてがい耻知らす哉。其面にて能く我前に出ること也。汝は慥に今度始めての人間と覚えたり。扨て扨て業と云ふ物は、是非に及ばぬ物哉。乍去我方便有り、酒を一石も二石も桶に入れ置き、汝に呑飽くほど呑ませ、僧達を頼み取回して、経咒を誦み、彼の酒を頭から酌懸け酌懸けひた責めに責めて責め殺すほどに、吊ひたらば止むべし。頓て牛込にて吊つてとらすべし。総而修行者はたばこも呑むは悪き也。
現代語訳
ある日、酒を好む遁世者を叱って言われた。長年意見をし、恥をかかせても止めない。さても厚かましく恥知らずだな。その顔でよく私の前に出てくるものだ。お前は確かに、このたび初めて人間に生まれてきた者と見える。さてさて、業というものは、どうにもならないものだな。とはいえ、私に方便がある。酒を一石も二石も桶に入れておき、お前に飲み飽きるほど飲ませ、僧たちに頼んで取り囲み、経や呪を読み、その酒を頭から酌みかけ酌みかけ、ひたすら責めに責めて、責め殺すほどに弔ったら、止むだろう。すぐに牛込で弔ってやろう。おおよそ修行者は、煙草を吸うのも悪いことである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『驢鞍橋』卷下去る時、僧俗の修行者思の外心得悪しと発憤有る折節、去る僧来る。師見て曰く、出入の人人大方にも心得たるかと云ひければ、一人もなし。殊に坊主の生けた振見度なし。あらいやの御坊主達や。早々帰りめされよと云つて、急に逐ひ帰し給ふ也。
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『驢鞍橋』卷上一日去る者草分を誦み損するを呵して曰く、我文もつゞかされとも、汝等か為めに心の及ぶ程書曲げて置くに、年来左右に乍居、是れを見分けぬと云ふ様な、無道心なる事有らんや。扨もでかい恥不知哉。爰に有るは只我をたらして、飯を心安く喰はん為めか。其面にて我前に好く出づる事也。夫れげな心にて先々にて我を売り回り、我にも耻を与ふる也。乍去我耻はもはや二三年の耻也。汝か永劫閣魔の前の耻を顧みすや。扨々不義至極の者哉。
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『驢鞍橋』卷下つきの日、仏法病ある者を呵して曰く、其方は仏法有り、我は仏法なし。何としても格合ふべからす。向後出入無用也。又曰く、総じて人人此腐物を持ちながら、是れに眼を著けす、余所を沙汰して過す物也。扨て扨て愚也。昨日も正庵大息をつき病み苦むを見て、髄に透ていやな体哉と思はるゝ也。我始めより是れに眼を著けて修す。余所仏法に眼を着けす、今は大事に成り、いやに迫て居ること、其親に離れたそ、子を殺してずと云ふ様なことに非す、中中切也。この年迄如是すれとも、隙え明けぬ故に、是とは云はれねども、乍去我程にしつめたる人も多くはあらじと也。
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『驢鞍橋』卷上我処に在らば仏行大形にしてなりとも、先つ我書を見分け不審も有らば問ひ窮め置くへきに、文字さへ見分けさるは余り慚愧の事也。只汝は追出して乞食させたるか慈悲なるべし。思ひ切つて世縁をづんと離れ、身を捨て、乞食し、乞出せば食し、若し乞出ずんば餓死せんと思ひ切つて、天道に任せて行脚せは、楽に居て飮喰し、仏行を為したるよりも增しなるへし。必す無縁乞食修行すへしと也。
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『驢鞍橋』卷下因に語て曰く、此の前、万安和尚貴雲寺に住の時、大酒なるを我異見して御止あれと云ひければ、和尚曰く、自らもいやに思へとも人許さぬ也。我檀那一人こそはつれんず、無理に强ゐば、膳を踢立て立給へと云へば、和尚大に肯ひ、去る時右の如く振舞て、ひしと下戸に成りめされたり。結句檀那も馳走して、一人もはづれず。総而修行者は、用にもないことを楽まぬ者也。況して怨と成る悪事等は、づんと止むべしと也。
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『驢鞍橋』卷上一日示して曰く、道を知らぬは是非も無き事也。今時侍の子どもが出家して、死人の皮を剝ぎ、世を渡る者多し。究めたる非興也。菩提の為めには出家然るへし。身過の為めには非義也。百石も望むこそ苦なれ、身一つ過ぎる分は安き事也。必ず志なく無道心にして出家し、人の信施を受くへからす。一向足軽にてもして過ぎたるか能き也。世間を以て地獄に入りたるは、仏法を以て救ふ頼みあり、仏法を以て地獄に入りたる者、なにを以て救ふへきや。永劫浮ふへき便り無しと也。