驢鞍橋 / 卷下
四月日、示して曰く、浮沈の機の位、又志眞實義のこと、皆能く心得たりや。我は頓てなくなる間、各此の道理を能く心得置くべし。先つ法にすくか志也。眞實と云ふは、腹立つたる時の機の位也。義は宜きに隨ふと云つて、能く成るが義也。性の明くなるが義也。此の前隨分志眞實ある長老ありけるが、いかにしても義なく、暗ふして用に立たす。又生付て義の有る性の人も有れども、志眞實なければ用に立たす。兎角此の三つの調はずして、修行成就すべからす。然る間志を進め、眞實を發し義を正しく守るべし。此の三つ融通して勇猛精進と成る。切に急に一大事因緣の心と成る也。古人切に急にと進めたるも、先づ勇猛心也。勇猛精進の心起らすして、切なる心、急なる心知るべからずと也。
新字:四月日、示して曰く、浮沈の機の位、又志真実義のこと、皆能く心得たりや。我は頓てなくなる間、各此の道理を能く心得置くべし。先つ法にすくか志也。真実と云ふは、腹立つたる時の機の位也。義は宜きに随ふと云つて、能く成るが義也。性の明くなるが義也。此の前随分志真実ある長老ありけるが、いかにしても義なく、暗ふして用に立たす。又生付て義の有る性の人も有れども、志真実なければ用に立たす。兎角此の三つの調はずして、修行成就すべからす。然る間志を進め、真実を発し義を正しく守るべし。此の三つ融通して勇猛精進と成る。切に急に一大事因縁の心と成る也。古人切に急にと進めたるも、先づ勇猛心也。勇猛精進の心起らすして、切なる心、急なる心知るべからずと也。
書き下し
四月日、示して曰く、浮沈の機の位、又志真実義のこと、皆能く心得たりや。我は頓てなくなる間、各此の道理を能く心得置くべし。先つ法にすくか志也。真実と云ふは、腹立つたる時の機の位也。義は宜きに随ふと云つて、能く成るが義也。性の明くなるが義也。此の前随分志真実ある長老ありけるが、いかにしても義なく、暗ふして用に立たす。又生付て義の有る性の人も有れども、志真実なければ用に立たす。兎角此の三つの調はずして、修行成就すべからす。然る間志を進め、真実を発し義を正しく守るべし。此の三つ融通して勇猛精進と成る。切に急に一大事因縁の心と成る也。古人切に急にと進めたるも、先づ勇猛心也。勇猛精進の心起らすして、切なる心、急なる心知るべからずと也。
現代語訳
四月某日、示して言われた。浮沈の気迫の位、また志・真実・義のことは、みなよく心得たか。私はやがていなくなるから、それぞれこの道理をよく心得ておきなさい。まず、法を好むのが志である。真実というのは、腹が立ったときの気迫の位である。義は宜しきに随うと言って、よくなるのが義である。性分が明るくなるのが義である。以前、ずいぶん志も真実もある長老がいたが、どうしても義がなく、暗くて役に立たなかった。また、生まれつき義のある性分の人もいるが、志と真実がなければ役に立たない。とにかく、この三つが調わなければ、修行は成就しない。だから志を進め、真実を起こし、義を正しく守りなさい。この三つが融け合って、勇猛精進となる。切に急に、一大事因縁の心となるのである。古人が、切に急に、と勧めたのも、まず勇猛心である。勇猛精進の心が起こらなければ、切なる心、急なる心は分からないだろう、と。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『呻吟語』内篇・應務・只だ是れ志無し義の當に為すべき所、力の能く為す所、心為す有らんと欲するも、親友挽き回し得、妻拏勸め止め得るは、只だ是れ志無きなり。
-
荀子・大略篇公行子之(こうこうしし)、燕(えん)に之(ゆ)き、曾元(そうげん)に塗(みち)に遇(あ)ひて曰く、「燕君(えんくん)は何如(いかん)」と。曾元曰く、「志(こころざし)卑(ひく)し。志卑き者は物を軽んじ、物を軽んずる者は助けを求めず。苟(いやしく)も助けを求めずんば、何ぞ能(よ)く挙(あ)がらん。氐羌(ていきょう)の虜(とりこ)たるや、其の係累(けいるい)せらるるを憂へずして、其の焚(や)かれざるを憂ふ。夫(か)の秋毫(しゅうごう)を利として、国家を害(そこな)ひ靡(ほろぼ)す、然も且(か)つ之を為す、幾(あ)に知計(ちけい)を為すと為さんや」と。
-
論語・里仁篇子曰わく、いやしくも仁に志せば、悪しきこと無し。
-
孟子・盡心章句上公孫丑曰く、「伊尹曰く、『予、不順に狎れしめず。』太甲を桐に放ち、民大いに悅ぶ。太甲賢となる。又之を反し、民大いに悅ぶ。賢者の人臣為るや、其の君、賢ならざれば、則ち固より放つ可きか。」孟子曰く、「伊尹の志有れば、則ち可なり。伊尹の志無ければ、則ち篡うなり。」
-
史記 伯夷列伝子曰く、「道同じからざれば相ひ為に謀らず」と。亦た各々其の志に従ふなり。故に曰く、「富貴もし求む可くんば、執鞭の士と雖も、吾も亦た之を為さん。如し求む可からずんば、吾が好む所に従はん」と。「歳寒くして、然る後に松柏の凋むに後るるを知る」。世を挙げて混濁して、清士乃ち見はる。豈に其の重んずること彼の若く、其の軽んずること此くの若くなるを以てせんや。
-
孟子・盡心章句下孟子曰く、「名を好むの人は、能く千乘の國を讓る。苟くも其の人に非ざれば、簞食豆羹も色に見わる。」