驢鞍橋 / 卷下
一日、去る女人來て云はく、下々の申すことは耳に障らぬ樣に用ゐ候とも、上たる人の非義は、何としても心に碍はる也。其の故は、上たる人に似合ぬ云分哉と思ふ心起て腹立つ也。師示して曰く、天は晴れたる物なれども、雨降り風吹くことあり、是れも上に似合はぬとて惡まんや。其方は暗をも十五夜の如くにして置度社思はるらん。上にも晴曇無くては、又同し土より出る草木にも、毒と成るも有り、藥と成るも有り、柳は綠、花紅、それぞれの色有り、人間の性も如是一樣なるべからず。然るに我心狹くして、加樣の見分なく、他の是非を病んて苦む也。
新字:一日、去る女人来て云はく、下々の申すことは耳に障らぬ様に用ゐ候とも、上たる人の非義は、何としても心に碍はる也。其の故は、上たる人に似合ぬ云分哉と思ふ心起て腹立つ也。師示して曰く、天は晴れたる物なれども、雨降り風吹くことあり、是れも上に似合はぬとて悪まんや。其方は暗をも十五夜の如くにして置度社思はるらん。上にも晴曇無くては、又同し土より出る草木にも、毒と成るも有り、薬と成るも有り、柳は綠、花紅、それぞれの色有り、人間の性も如是一様なるべからず。然るに我心狭くして、加様の見分なく、他の是非を病んて苦む也。
書き下し
一日、去る女人来て云はく、下々の申すことは耳に障らぬ様に用ゐ候とも、上たる人の非義は、何としても心に碍はる也。其の故は、上たる人に似合ぬ云分哉と思ふ心起て腹立つ也。師示して曰く、天は晴れたる物なれども、雨降り風吹くことあり、是れも上に似合はぬとて悪まんや。其方は暗をも十五夜の如くにして置度社思はるらん。上にも晴曇無くては、又同し土より出る草木にも、毒と成るも有り、薬と成るも有り、柳は綠、花紅、それぞれの色有り、人間の性も如是一様なるべからず。然るに我心狭くして、加様の見分なく、他の是非を病んて苦む也。
現代語訳
ある日、ある女性が来て言った。下々の者の言うことは、耳に障らないように受け流せますが、上に立つ人の非道は、どうしても心に引っかかります。そのわけは、上に立つ人に似合わない言い分だ、と思う心が起こって腹が立つのです。師は示して言われた。天は晴れているものだが、雨が降り風が吹くこともある。これも天に似合わないと言って憎むのか。あなたは闇夜をも十五夜のように明るくしておきたいと思っておられるのだろう。上にも晴れ曇りがなくてはならない。また同じ土から出る草木にも、毒となるものもあり、薬となるものもあり、柳は緑、花は紅、それぞれの色がある。人間の性分もこのように一様ではない。それなのに自分の心が狭くて、このような見分けがなく、他人の是非を病んで苦しむのである。
解説
この章句が説くこと
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説苑・說叢百方の事、萬變鋒出す。或いは虛を持せんと欲し、或いは實を持せんと欲し、或いは浮遊を好み、或いは誠必を好み、或いは行い安舒に、或いは飄疾を為す。此れより之を觀れば、天下は一なるべからず、聖王天下に臨みて能く之を一にす。
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