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驢鞍橋 / 卷上

夜話に曰く、若き時より用付けたる故か、我法も武勇には自由に使はるへしと思ふ也。相手有れは張合ひにて捨て安きが、何も無き坩の下へ只落ちて死ぬ事はならぬ也。是を以て思ふに只佛法の內に身を捨つる事は難き也。故に四十二章經にも命を捨て必す死する事難しと說き給ふ。實にと死する者に命を捨て死し行く者多くは有るへからす。皆命を惜み死し行くなるべし。扨々大事の事也。御坊主達常に命を捨てて居付けらるべしと也。

新字:夜話に曰く、若き時より用付けたる故か、我法も武勇には自由に使はるへしと思ふ也。相手有れは張合ひにて捨て安きが、何も無き坩の下へ只落ちて死ぬ事はならぬ也。是を以て思ふに只仏法の内に身を捨つる事は難き也。故に四十二章経にも命を捨て必す死する事難しと説き給ふ。実にと死する者に命を捨て死し行く者多くは有るへからす。皆命を惜み死し行くなるべし。扨々大事の事也。御坊主達常に命を捨てて居付けらるべしと也。

書き下し

夜話に曰く、若き時より用付けたる故か、我法も武勇には自由に使はるへしと思ふ也。相手有れは張合ひにて捨て安きが、何も無き坩の下へ只落ちて死ぬ事はならぬ也。是を以て思ふに只仏法の内に身を捨つる事は難き也。故に四十二章経にも命を捨て必す死する事難しと説き給ふ。実にと死する者に命を捨て死し行く者多くは有るへからす。皆命を惜み死し行くなるべし。扨々大事の事也。御坊主達常に命を捨てて居付けらるべしと也。

現代語訳

夜話で言われた。若いときから用いつけてきたせいか、私の法は武勇には自由に使えると思う。相手がいれば張り合いがあって身を捨てやすいが、何もない崖の下へただ落ちて死ぬことはできない。これで思えば、ただ仏法の内で身を捨てることは難しいのである。だから『四十二章経』にも、命を捨てて必ず死ぬことは難しい、と説かれている。本当に死ぬ者でも、命を捨てて死んでいく者は多くはないだろう。みな命を惜しんで死んでいくのだろう。なんとも大事なことだ。御坊主たちは、常に命を捨てて居慣れていなさい、と。

解説

第十四条と同じく、相手がいれば身を捨てやすいが、何もない崖から落ちるように捨てるのは難しい、と正三は語る。戦いの場の勇気と、日常の中で静かに身を捨てる覚悟とは質が違う、というのである。人は死ぬときも、実は命を惜しみながら死んでいく。だから常に命を捨てた状態に慣れておけ、と。困難に立ち向かう勇気より、何事もない日々の中で執着を手放し続けるほうが難しい、という実感のこもった条である。

この章句が説くこと

身を捨てる覚悟四十二章経武勇日常

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