二宮翁夜話 / 続篇
翁曰、財を惜む者は、如何程愍然の者を見るも扱ふ事能はず。命を惜む者は、君の不能を見て強諫すること能はず、又馬前に死する事も能はず。此の如き者は農事も十分にする事は出来ざるべし。夫れ農は天変凶歳風雨を恐れては、十分に肥を用ひ、力を尽す事は出来ぬなり。損害は天に任せて、天下の農人は農をするなり。然るを況んや仕官して君に仕ふる者をや、況して累代仕官の者をや。
書き下し
翁(おきな)曰(いわ)く、財を惜(おし)む者は、如何程(いかほど)愍然(びんぜん)の者を見るも扱(あつか)ふ事能(あた)はず。命を惜む者は、君の不能を見て強諫(きょうかん)すること能はず、又馬前(ばぜん)に死する事も能はず。此(か)くの如き者は農事も十分にする事は出来ざるべし。夫(そ)れ農は天変凶歳(きょうさい)風雨を恐れては、十分に肥(こやし)を用ひ、力を尽す事は出来ぬなり。損害は天に任せて、天下の農人(のうにん)は農をするなり。然(しか)るを況(いわ)んや仕官して君に仕ふる者をや、況(ま)して累代(るいだい)仕官の者をや。
現代語訳
翁(二宮尊徳)が言われた。財産を惜しむ者は、どれほど哀れな者を見ても救うことができない。命を惜しむ者は、主君の過ちを見ても命がけで諫めることができず、また主君のために戦場で死ぬこともできない。このような者は、農事も十分にはできないだろう。そもそも農業は、天変地異や凶作や風雨を恐れていては、肥料を十分に用い、力を尽くすことなどできない。損害は天に任せて、世の農民は農業を営むのである。ましてや仕官して主君に仕える者はなおさら、まして代々仕えてきた家の者はなおさらのことである。
解説
尊徳は、財や命を惜しむ心が人を無為に陥らせると説きます。財を惜しめば困窮者を救えず、命を惜しめば主君を諫めることも尽くすこともできない。農民でさえ、凶作や風雨の損失を恐れていては全力で肥料を施し耕作することはできず、損害は天に任せて働くのだと言います。ここには、結果を計算して惜しむのではなく、まず全力を尽くすという勤労と至誠の精神が貫かれています。損得勘定に縛られれば思い切った推譲も献身もできない。現代でも、失敗や損失を恐れて一歩を惜しむ姿勢を戒め、まず力を尽くすことの尊さを教える一条です。
この章句が説くこと
二宮翁夜話報徳勤労至誠推譲損得を惜しまず