師導古典を学びたいすべての人に

二宮翁夜話 / 続篇

翁曰、天道は自然に行はるゝ道なり、人道は人の立つる所の道なり。元より区別判然たるを相混するは間違なり。人道は勤めて人力を以て保持し、自然に流動する天道の為に押流されぬ様にするにあり。天道に任する時は、堤は崩れ、川は埋り、橋は朽ち、家は立腐となるなり。人道は之に反し、堤を築き、川を浚へ、橋を修理し、家根を葺きて雨のもらぬ様にするにあり。身の行も亦此の如し、天道は寝たければ寝、遊びたければ遊び、食ひたければ食ひ、飲たければ飲むの類なり。人道は眠たきを勤めて働き、遊びたきを励まして戒め、食たき美食を堪へ、飲たき酒を控へて明日の為に物を貯ふ是人道也。能思ふべし。

書き下し

翁(おきな)曰(いわ)く、天道は自然に行はるゝ道なり、人道は人の立つる所の道なり。元より区別判然たるを相混(あいこん)ずるは間違(まちがい)なり。人道は勤めて人力を以て保持し、自然に流動する天道の為に押流(おしなが)されぬ様にするにあり。天道に任(まか)する時は、堤(つつみ)は崩れ、川は埋(うづ)まり、橋は朽ち、家は立腐(たてくされ)となるなり。人道は之に反し、堤を築き、川を浚(さら)へ、橋を修理し、家根(やね)を葺(ふ)きて雨のもらぬ様にするにあり。身の行(おこな)ひも亦(また)此の如し、天道は寝たければ寝、遊びたければ遊び、食ひたければ食ひ、飲みたければ飲むの類なり。人道は眠たきを勤めて働き、遊びたきを励まして戒(いまし)め、食たき美食を堪(こら)へ、飲みたき酒を控へて明日の為に物を貯(たくわ)ふ是人道也。能(よ)く思ふべし。

現代語訳

翁が言われた。天道は自然に行われる道であり、人道は人が立てるところの道である。もともと区別がはっきりしているのに混同するのは間違いだ。人道とは、努めて人の力で保ち、自然に流れ動く天道に押し流されないようにすることにある。天道に任せておけば、堤は崩れ、川は埋まり、橋は朽ち、家は腐ってしまう。人道はこれに反して、堤を築き、川をさらい、橋を修理し、屋根を葺いて雨が漏らないようにすることにある。わが身の行いもまた同じだ。天道は、寝たければ寝、遊びたければ遊び、食べたければ食べ、飲みたければ飲むという類である。人道は、眠たいのを努めて働き、遊びたいのを励まして戒め、食べたい美食を我慢し、飲みたい酒を控えて明日のために蓄える――これが人道である。よく考えるべきだ。

解説

報徳思想の根幹をなす「天道」と「人道」の区別を説いた、極めて重要な一条です。天道は自然のなりゆきで、放っておけば堤は崩れ橋は朽ちる。人道はそれに逆らって努力し、堤を築き橋を直して秩序を保つ営みだと言います。わが身についても、眠気や遊びや美食の欲は天道であり、それを努めて戒め、明日のために蓄えるのが人道だと説きます。ここには勤労と勤倹貯蓄、そして分度を守る報徳の実践思想が明快に表れています。自然に流されず人の力で暮らしを立て直すという姿勢は、現代でも、放置すれば衰える健康・家計・組織を、意志ある努力で維持し続けることの大切さを教えてくれます。

この章句が説くこと

二宮翁夜話報徳天道人道勤労勤倹分度

この一句を、あなたの毎日に。

古典の教えを、今の状況に当てはめて考えてみる——師導があなたの学びと選択を支えます。

師導で古典を学ぶ
いま登録すると、7日間すべての機能を無料でお試しいただけます。 無料ではじめる