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二宮翁夜話 / 巻之五

翁曰、天保七年の十二月、桜町支配下四千石の村に諭し、毎家所持の米麦雑穀の俵数を取調させ、米は勿論大小麦、大小豆、何にても一人に付、俵数五俵づゝの割り合を以て、銘々貯へ置、其余所持の俵数は勝手次第に売出すべし、此節程穀価の高き事は、二度とあるまじ、誠に売るべき時は此時なり、速に売て金となすべし、金不用ならば、相当の利足にて預り遣すべし、且当節売出すは、平年施すよりも功徳多し、何方へなり共売出すべし、一人五俵の割に、不足の者、又貯なき者の分は、当方にて慥に備へ置べき間、安心すべし、決して隠し置に及ず、詳細に取調て届け出べしと言て四千石村々の、毎戸の余分は売出させ、毎戸の不足の分は、郷蔵に積囲ひ、其余は漸次倉を開て、烏山領を始、皆他領他村へ出して救助したり、他の窮を救ふには先自分支配の村々の安心する様に方法を立て而して後に他に及すべし。

書き下し

翁(おきな)曰(いわ)く、天保七年の十二月、桜町支配下四千石の村に諭(さと)し、毎家所持の米麦雑穀(ざっこく)の俵数(ひょうすう)を取調(とりしら)べさせ、米は勿論大小麦、大小豆、何にても一人に付き、俵数五俵づゝの割り合を以て、銘々(めいめい)貯(たくわ)へ置き、其の余所持の俵数は勝手次第に売出すべし、此の節程穀価(こくか)の高き事は、二度とあるまじ、誠に売るべき時は此の時なり、速(すみやか)に売りて金となすべし、金不用ならば、相当の利足(りそく)にて預(あず)り遣(つか)はすべし、且(かつ)当節売出すは、平年施(ほどこ)すよりも功徳多し、何方(いずかた)へなり共売出すべし、一人五俵の割に、不足の者、又貯(たくわえ)なき者の分は、当方にて慥(たしか)に備(そな)へ置くべき間、安心すべし、決して隠し置くに及ばず、詳細に取調べて届け出づべしと言ひて四千石村々の、毎戸の余分は売出させ、毎戸の不足の分は、郷蔵(ごうぐら)に積囲(つみかこ)ひ、其の余は漸次(ぜんじ)倉を開きて、烏山(からすやま)領を始め、皆他領他村へ出して救助したり、他の窮(きゅう)を救ふには先(ま)づ自分支配の村々の安心する様に方法を立て、而(しか)して後に他に及ぼすべし。

現代語訳

翁が言われた。天保七年の十二月、桜町の支配下四千石の村々に諭して、各家が持つ米麦雑穀の俵数を調べさせ、米はもちろん大麦小麦・大豆小豆など何でも一人あたり五俵ずつの割合で銘々に蓄えさせ、それ以上持っている俵は自由に売り出させた。「今ほど穀物の値が高いことは二度とあるまい。まさに売るべきはこのときだ。速やかに売って金にせよ。金がいらなければ相応の利息で預かってやろう。しかも今売り出すのは、平年に施すよりも功徳が多い。どこへでも売り出すがよい。一人五俵に足りない者や蓄えのない者の分は、こちらで確かに備えておくから安心せよ。決して隠しておくには及ばない。詳細に調べて届け出よ」と言って、四千石の村々の各戸の余分を売り出させ、各戸の不足分は郷の蔵に積み蓄え、残りは順次蔵を開いて、烏山領をはじめ他の領地・他の村へも出して救助した。他所の困窮を救うには、まず自分の支配する村々が安心するよう方策を立て、そのうえで他所に及ぼすべきである。

解説

飢饉の救済をどんな順序で行うべきかを説く一条です。尊徳はまず一人五俵という「分度」を定めて各戸に蓄えを確保させ、余剰は高値のうちに売らせて金に換えさせます。そのうえで不足者の分を郷蔵に備え、なお余った分を他領・他村へと差し出す――「まず自分の村を安んじ、しかる後に他に及ぼす」という段取りに、無理のない救済の知恵が光ります。手元の余りを困窮する他者へ譲り渡すのは、報徳思想の核心である「推譲」の実践です。足元を固めてから外へ広げるこの順序は、支援や事業を持続可能に進める現代の危機対応にも通じる、地に足のついた方法論といえます。

この章句が説くこと

二宮翁夜話報徳推譲分度飢饉救済郷蔵

この一句を、あなたの毎日に。

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