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二宮翁夜話 / 巻之五

翁曰、囲穀数十年を経て少も損ぜぬ物は、稗に勝れるはなし、申合せて成丈多く積置くべし、稗を食料に用ふるに、凶歳の時は糠を去る事勿れ、から稗一斗に小麦四五升を入れて、水車の石臼にて挽き、絹篩に掛けて、団子に制して食すべし、俗に餅草と云蓬の若葉を入るれば、味好し、稗を凶歳の食料にするには、此法第一の徳用なり、稗飯にするは損なり、されど上等の人の食料には、稗を二昼夜間、水に漬けて、取上げて蒸籠にて蒸して、而して能干し、臼にて搗き、糠を去りて、米を少く交ぜて、飯に炊ぐなり、大に殖る物なれば、水を余分に入て、炊くべし、上等の食に用ふるには此法に如くはなし、されば富有者自分の為にも、多く囲ひ置て宜敷物なり、勉めて積囲ふべし。

書き下し

翁(おきな)曰(いわ)く、囲穀(かこいこく)数十年を経(へ)て少(すこ)しも損(そん)ぜぬ物は、稗(ひえ)に勝(まさ)れるはなし、申合せて成丈(なるたけ)多く積置くべし、稗を食料に用ふるに、凶歳の時は糠(ぬか)を去る事勿(なか)れ、から稗一斗に小麦四五升を入れて、水車の石臼(うす)にて挽(ひ)き、絹篩(きぬぶるい)に掛けて、団子(だんご)に制(せい)して食すべし、俗に餅草(もちぐさ)と云ふ蓬(よもぎ)の若葉を入るれば、味(あじ)好(よ)し、稗を凶歳の食料にするには、此の法第一の徳用なり、稗飯にするは損なり、されど上等の人の食料には、稗を二昼夜間、水に漬(つ)けて、取上げて蒸籠(せいろう)にて蒸(む)して、而(しか)して能(よ)く干し、臼(うす)にて搗(つ)き、糠を去りて、米を少く交(ま)ぜて、飯(めし)に炊(かし)ぐなり、大に殖(ふ)える物なれば、水を余分に入れて炊くべし、上等の食に用ふるには此の法に如(し)くはなし、されば富有者自分の為にも、多く囲(かこ)ひ置て宜敷(よろしき)物なり、勉めて積囲(つみかこ)ふべし。

現代語訳

翁(二宮尊徳)が言われた。備蓄穀物として数十年経っても少しも傷まないものは、稗に勝るものはない。申し合わせてできるだけ多く積み置くがよい。稗を食料に用いるには、凶年のときは糠を取り除いてはならない。殻つきの稗一斗に小麦を四、五升入れ、水車の石臼で挽き、絹の篩にかけ、団子にして食べるのがよい。俗に餅草という蓬の若葉を入れると味がよい。稗を凶年の食料とするには、この方法が第一の得策である。稗飯にするのは損だ。ただし上等の人の食料には、稗を二昼夜水に漬け、取り上げて蒸籠で蒸し、よく干して臼で搗き、糠を取り除き、米を少し混ぜて飯に炊く。大いにかさが増えるものだから、水を余分に入れて炊くとよい。上等の食に用いるにはこの方法に勝るものはない。だから富裕な者は自分のためにも多く備蓄しておくのがよいのだ。努めて積み蓄えるがよい。

解説

凶年に備えて何を蓄えるべきかを、稗の具体的な調理法まで示して説く一条です。数十年経っても傷まない稗こそ最良の備蓄穀物だとし、糠を捨てず団子にする節約法、上等の食にする丁寧な方法まで具体的に語ります。ここに尊徳の「分度(身の丈に応じた限度)」と、わずかな備えを積み重ねる「積小為大」の思想が息づいています。飢饉という非常時を前提に、平時から地道に蓄える備えの姿勢は、防災や家計管理が説かれる現代にも通じます。抽象論ではなく手を動かす実学として語る点に、農村復興に生涯を捧げた尊徳の面目が現れています。

この章句が説くこと

二宮翁夜話報徳囲穀備蓄積小為大分度

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