二宮翁夜話 / 巻之三
翁曰、千円の資本にて、千円の商法をなす時は、他より見て危き身代と云ふなり。千円の身代にて、八百円の商法をする時は、他より見て小なれど堅き身代と云ふ。此の堅き身代と云はるる処に、味あり益あるなり。然るを世間百円の元手にて、弐百円の商法をするを、働き者と云へり。大なる誤謬と云ふべし。
書き下し
翁(おきな)曰(いわ)く、千円の資本にて、千円の商法(しょうほう)をなす時は、他(た)より見て危(あや)き身代(しんだい)と云ふなり。千円の身代にて、八百円の商法をする時は、他より見て小なれど堅(かた)き身代と云ふ。此の堅き身代と云はるる処に、味(あじわ)ひあり益(えき)あるなり。然(しか)るを世間百円の元手にて、弐百円の商法をするを、働き者と云へり。大なる誤謬(ごびゅう)と云ふべし。
現代語訳
翁(二宮尊徳)が言われた。千円の資本で千円ぶんの商売をすれば、傍から見て危うい身代というものだ。千円の身代で八百円ぶんの商売をすれば、傍から見て小さいけれども堅実な身代という。この「堅い身代」と呼ばれるところにこそ、味わいがあり利益があるのだ。ところが世間では、百円の元手で二百円ぶんの商売をするのを「働き者」と言う。大きな誤りだというべきである。
解説
身の丈に合った経営、すなわち「分度」を商いに説いた一条です。資本すべてを注ぎ込む商売は危うく、資力より控えめに営んでこそ「堅い身代」となり、そこにこそ真の味わいと利益がある――尊徳はこう説きます。逆に、元手の倍を動かす無理な拡大を「働き者」ともてはやす世間の風潮を、大きな誤りだと退けます。余力を残して堅実に営む姿勢は、危機に耐える安全余裕を生み、長く続く繁栄の土台となります。これは借入頼みの過剰投資が破綻を招く現代の事業経営にも通じる普遍の知恵です。派手な拡大より確かな堅実さを尊ぶ報徳の経営観が、簡潔な数字の対比で鮮やかに示された一条です。
この章句が説くこと
二宮翁夜話報徳分度堅実経営身の丈余力
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