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二宮翁夜話 / 巻之二

翁曰、遠を謀る者は富み、近きを謀る者は貧す、夫遠を謀る者は、百年の為に松杉の苗を植う、まして春植て、秋実のる物に於てをや、故に富有なり、近を謀る者は、春植えて秋実法る物をも、猶遠しとして植ず、只眼前の利に迷ふて、蒔ずして取り、植ずして刈取る事のみに眼をつく、故に貧窮す、夫蒔ずして取り、植ずして刈る物は、眼前利あるが如しといへども、一度取る時は、二度刈る事を得ず、蒔て取り、植て刈る者は歳々尽る事なし、故に無尽蔵と云なり、仏に福聚海と云ふも、又同じ。

書き下し

翁曰く、遠(とお)きを謀(はか)る者は富み、近きを謀る者は貧(ひん)す。夫(それ)遠(とおき)を謀る者は、百年の為に松杉の苗を植う。まして春植ゑて、秋実(み)のる物に於(おい)てをや。故に富有なり。近(ちか)きを謀(はか)る者は、春植ゑて秋実法(みの)る物をも、猶(なお)遠しとして植ゑず、只眼前の利に迷(まよ)ふて、蒔(まか)ずして取り、植ゑずして刈取る事のみに眼をつく。故に貧窮(ひんきゅう)す。夫(それ)蒔(まか)ずして取り、植ゑずして刈る物は、眼前利あるが如しといへども、一度取る時は、二度刈る事を得ず。蒔きて取り、植ゑて刈る者は歳々(さいさい)尽(つ)くる事なし。故に無尽蔵(むじんぞう)と云ふなり。仏に福聚海(ふくじゅかい)と云ふも、又同じ。

現代語訳

翁が言われた。遠い先を計る者は富み、目先ばかりを計る者は貧しくなる。そもそも遠い先を計る者は、百年後のために松や杉の苗を植える。まして春に植えて秋に実るものならなおさらだ。だから豊かになる。目先を計る者は、春に植えて秋に実るものさえ、まだ遠いといって植えず、ただ目先の利に惑って、まかずに取り、植えずに刈り取ることばかりに目をつける。だから貧しくなる。そもそもまかずに取り、植えずに刈るものは、目先は利があるようでも、一度取れば二度は刈れない。まいて取り、植えて刈る者は、年々尽きることがない。だからこれを無尽蔵という。仏教でいう福聚海(福の集まる海)というのも、また同じことだ。

解説

「遠きを謀る者は富み、近きを謀る者は貧す」という有名な一句を核とする一条です。富む者は百年後のために松や杉を植え、春にまいて秋に実る恵みを大切にする。貧しくなる者は目先の利に惑い、まかずに取り植えずに刈ることばかり考えて、結局は一度きりで尽きてしまう。まいて取り植えて刈る者だけが年々尽きることのない「無尽蔵」を得る、と尊徳は説きます。これは今日の労を惜しまず未来に種をまく勤労と、小さな積み重ねを大きな実りに育てる積小為大の思想そのものです。現代でも、短期の成果に飛びつかず、長期の視点で人を育て資産や信頼を積み上げる姿勢こそ持続的な繁栄を生むという、経営や人生設計に通じる教えです。

この章句が説くこと

二宮翁夜話報徳遠きを謀る積小為大勤労無尽蔵

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