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二宮翁夜話 / 巻之一

翁曰く、道の行はるるや難し、道の行れざるや久し。その才ありといへども、その力なき時は行はれず。其才その力ありといへども、其徳なければ又行れず。其徳ありといへども、その位なき時は又行れず。然れども是は是大道を国天下に行ふの事なり。その難き勿論なり。然れば何ぞ此人なきを憂へんや。何ぞ其位なきを憂へんや。茄子をならするは茄子作り能くすべし。馬を肥すは馬士能くすべし。一家を斉ふるは亭主能くすべし。或は兄弟親戚相結んで行ひ、或は朋友同志相結んで行ふべし。人々此道を尽し、家々此道を行ひ、村々此道を行はば、豈国家興復せざる事あらんや。

書き下し

翁(おきな)曰(いわ)く、道の行はるるや難し、道の行はれざるや久し。その才ありといへども、その力なき時は行はれず。其才(そのさい)その力ありといへども、其徳(そのとく)なければ又行はれず。其徳ありといへども、その位(くらい)なき時は又行はれず。然れども是は是(これこれ)大道を国天下(くにてんか)に行ふの事なり。その難き勿論(もちろん)なり。然れば何ぞ此人なきを憂(うれ)へんや。何ぞ其位なきを憂へんや。茄子(なす)をならするは茄子作り能(よ)くすべし。馬を肥(こや)すは馬士(まご)能くすべし。一家を斉(ととの)ふるは亭主能くすべし。或(あるい)は兄弟親戚相結んで行ひ、或は朋友同志相結んで行ふべし。人々此道を尽し、家々此道を行ひ、村々此道を行はば、豈(あに)国家興復(こうふく)せざる事あらんや。

現代語訳

翁が言われた。道が行われるのは難しく、道が行われないまま久しい。才能があっても、それを実行する力がなければ道は行われない。才も力もあっても、徳がなければやはり行われない。徳があっても、それにふさわしい地位がなければまた行われない。とはいえ、これは大道を国や天下に行き渡らせる場合の話であって、それが難しいのはもちろんだ。だとしても、どうしてそういう人物がいないことを憂える必要があろうか。どうして地位がないことを憂える必要があろうか。茄子を実らせるのは茄子作りがうまくやればよい。馬を肥やすのは馬子がうまくやればよい。一家を整えるのは亭主がうまくやればよい。あるいは兄弟親戚が力を結び合って行い、あるいは友人同志が結び合って行えばよい。人それぞれがこの道を尽くし、家々がこの道を行い、村々がこの道を行えば、どうして国家が復興しないことがあろうか。

解説

大道を国や天下に及ぼすには才・力・徳・位の四つがそろわねばならず、それは至難だ――そう認めたうえで、尊徳はしかし少しも悲観しません。天下を動かす大人物や地位がなくとも憂える必要はない、と言うのです。茄子を実らせるのは茄子作りが、馬を肥やすのは馬子が、一家を整えるのは主人がやればよい。人はそれぞれの持ち場で、その分に応じた道を尽くせばよいのだと説きます。さらに兄弟親戚や友人同志が力を結び合えばなおよい。こうして一人ひとりが道を尽くし、家々村々がそれを行えば、国家の復興は自然に成る――ここには、大きな理想を身近な実践へと分解し、足元から積み上げていく「積小為大」の思想が明快に示されています。壮大な目標を前に立ちすくむのではなく、各自の持ち場で今できることを尽くせという教えは、現代の組織や地域づくりにも通じる勇気ある言葉です。

この章句が説くこと

二宮翁夜話報徳積小為大分度各自の持ち場国家興復

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