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名将言行録 / 『名将言行録』伊達政宗 知らぬふりの諫言

○政宗嘗て江戶に赴く、千手を過ぐ。將軍家光、千手に狩りす。從者政宗に謂て曰く、今日將軍游獵すと、請ふ疾く馳て其未だ至らざるに及ばんと。聽かず。故らに徐々として過ぐ。家光方に鷹を臂にし隴間に立ち、從臣未だ來り屬せず、時に政宗興に在り、見ざるまねして過ぐ。後家光に謁す。家光曰く、日者吾鷹を千手に放つ、卿何爲ぞ知らざるまねして過ぐ。對て曰く、臣千手を過ぐる時、唯一男子、鷹を臂にするを見る。未だ嘗て、殿下を見ざるなり。家光曰く、是乃ち吾なり。政宗、僞り驚き、謝す。因て諫めて曰く、公、天下の重を任ぜられ、游獵を好み給ひて、數々輕出し給ひ、警衞を須ひられず、臣、恐くは一旦不測の變あらんことを、公の爲めに之を危ぶむと。家光之を嘉納せり。

新字:○政宗嘗て江戸に赴く、千手を過ぐ。将軍家光、千手に狩りす。従者政宗に謂て曰く、今日将軍游猟すと、請ふ疾く馳て其未だ至らざるに及ばんと。聴かず。故らに徐々として過ぐ。家光方に鷹を臂にし隴間に立ち、従臣未だ来り属せず、時に政宗興に在り、見ざるまねして過ぐ。後家光に謁す。家光曰く、日者吾鷹を千手に放つ、卿何為ぞ知らざるまねして過ぐ。対て曰く、臣千手を過ぐる時、唯一男子、鷹を臂にするを見る。未だ嘗て、殿下を見ざるなり。家光曰く、是乃ち吾なり。政宗、偽り驚き、謝す。因て諫めて曰く、公、天下の重を任ぜられ、游猟を好み給ひて、数々軽出し給ひ、警衛を須ひられず、臣、恐くは一旦不測の変あらんことを、公の為めに之を危ぶむと。家光之を嘉納せり。

書き下し

○政宗嘗て江戶に赴く、千手を過ぐ。將軍家光、千手に狩りす。從者政宗に謂て曰く、今日將軍游獵すと、請ふ疾く馳て其未だ至らざるに及ばんと。聽かず。故らに徐々として過ぐ。家光方に鷹を臂にし隴間に立ち、從臣未だ來り屬せず、時に政宗興に在り、見ざるまねして過ぐ。後家光に謁す。家光曰く、日者吾鷹を千手に放つ、卿何爲ぞ知らざるまねして過ぐ。對て曰く、臣千手を過ぐる時、唯一男子、鷹を臂にするを見る。未だ嘗て、殿下を見ざるなり。家光曰く、是乃ち吾なり。政宗、僞り驚き、謝す。因て諫めて曰く、公、天下の重を任ぜられ、游獵を好み給ひて、數々輕出し給ひ、警衞を須ひられず、臣、恐くは一旦不測の變あらんことを、公の爲めに之を危ぶむと。家光之を嘉納せり。

現代語訳

政宗はあるとき江戸に赴き、千手を通った。将軍家光が千手で狩りをしていた。従者が政宗に「今日、将軍が狩りをされています。どうか急いで走り、まだ到着されないうちに過ぎましょう」と言った。政宗は聞き入れず、わざとゆっくり通り過ぎた。家光は鷹を腕にとめ、畦に立っていて、従者はまだ来て集まっていなかった。そのとき政宗は興に乗っていて、見ないふりをして通り過ぎた。のちに家光に謁見した。家光は「先日、私が鷹を千手で放ったとき、そなたはなぜ知らぬふりをして通り過ぎたのか」と言った。政宗は答えて「私は千手を通るとき、ただ一人の男が鷹を腕にとめているのを見ました。殿下をお見かけしたことはございません」と言った。家光は「それが私なのだ」と言った。政宗は驚いたふりをして謝り、そこで諫めて言った。「公は天下の重い任を負われていながら、狩りを好まれてしばしば軽々しく外出され、警護もお用いにならない。私は、万一不測の変事があるのではないかと、公のために危ぶんでおります」と。家光はこれを喜んで受け入れた。

解説

将軍の無防備な外出を、身分を見ぬふりで諫める政宗の逸話です。直接たしなめるのではなく、鷹を腕にとめたただの男に見えたと言い、あとから驚いたふりをして警護の大切さを説きます。成立当時の主従関係の中で、角が立たないようにとの配慮の知恵として読めます。上司に意見を伝えるとき、まず相手の面子を守る形を整え、そのうえで本題を述べる順序は、現代の職場でも通用します。ただし、これは伝承であり、状況に応じた使い分けが必要です。
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この章句が説くこと

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