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名将言行録 / 『名将言行録』織田信長 諫死した守役を忘れない

○信長、既に畿内を伐從へ、弓箭日に月に盛りに成りし時、近臣共諂ひて、斯く强大に及ばせ給ふことを知らで、平手政秀が自害しけるは、短慮にて候と申けるを、信長怒て色を變じ吾斯く弓箭を執ること、皆政秀が諫めて死しけるに、恥惧て過を改めし故なり、古今に比類なき政秀を短慮なりと言ふ、汝等が志無下に口惜きと言はれけり。信長、事に觸れ政秀のことを思ひ出し、鷹野、河狩に出し時抔、鷹の取りたる鳥を引さきては、政秀之を食せよと言て虚空に向ひて投げ、涙を浮べしこと度々ありしとぞ。

新字:○信長、既に畿内を伐従へ、弓箭日に月に盛りに成りし時、近臣共諂ひて、斯く強大に及ばせ給ふことを知らで、平手政秀が自害しけるは、短慮にて候と申けるを、信長怒て色を変じ吾斯く弓箭を執ること、皆政秀が諫めて死しけるに、恥惧て過を改めし故なり、古今に比類なき政秀を短慮なりと言ふ、汝等が志無下に口惜きと言はれけり。信長、事に触れ政秀のことを思ひ出し、鷹野、河狩に出し時抔、鷹の取りたる鳥を引さきては、政秀之を食せよと言て虚空に向ひて投げ、涙を浮べしこと度々ありしとぞ。

書き下し

○信長、既に畿内を伐從へ、弓箭日に月に盛りに成りし時、近臣共諂ひて、斯く强大に及ばせ給ふことを知らで、平手政秀が自害しけるは、短慮にて候と申けるを、信長怒て色を變じ吾斯く弓箭を執ること、皆政秀が諫めて死しけるに、恥惧て過を改めし故なり、古今に比類なき政秀を短慮なりと言ふ、汝等が志無下に口惜きと言はれけり。信長、事に觸れ政秀のことを思ひ出し、鷹野、河狩に出し時抔、鷹の取りたる鳥を引さきては、政秀之を食せよと言て虚空に向ひて投げ、涙を浮べしこと度々ありしとぞ。

現代語訳

信長がすでに畿内を討ち従え、戦がますます盛んになったとき、近臣たちがへつらって、これほど強大におなりになることを知らずに、平手政秀が自害したのは短慮でございました、と申しました。信長は怒って顔色を変え、私がこうして弓矢を取っているのは、皆、政秀が諫めて死んだことで、恥じ恐れて過ちを改めたからだ。古今に比べるもののない政秀を短慮と言うとは、お前たちの志は誠に口惜しいと言いました。信長は、折に触れて政秀のことを思い出し、鷹野や河狩りに出たときなど、鷹の取った鳥を引き裂いては、政秀これを食べよと言って虚空に向かって投げ、涙を浮かべたことが度々あったということです。

解説

若いころの奔放を諫めて自害した、守役の平手政秀を、後々まで追慕した話です。岡谷が集めた逸話で、細部の確かさは分かりません。近臣が結果論で政秀を短慮と評したとき、信長は怒って退けたと語られます。耳の痛い諫めを受けた恩を、成功のあとに忘れず、軽んじる言葉を許さなかった点が読みどころです。諫言した人の価値は、聞き入れた側が成長して初めて示されます。現代でも、上司に直言した部下や、苦言をくれた先輩への感謝を、成果が出たあとに忘れない姿勢が、次の諫言を生む環境をつくります。
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この章句が説くこと

平手政秀諫言恩追慕近臣過ちを改める

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