宋名臣言行録 / 後集巻九・曾鞏
初見神宗上問曰卿與王安石布衣之舊安石何如對曰安石文學行義不减揚雄然吝所以不及古人曰安石輕富貴非吝也對曰非此之謂安石勇於有為吝於改過上頷之
新字:初見神宗上問曰卿与王安石布衣之旧安石何如対曰安石文学行義不减揚雄然吝所以不及古人曰安石軽富貴非吝也対曰非此之謂安石勇於有為吝於改過上頷之
書き下し
初めて神宗に見ゆ。上問いて曰く、卿と王安石とは布衣の舊なり。安石は何如と。對えて曰く、安石の文學行義は揚雄に減ぜず。然れども吝なり。所以に古人に及ばずと。上曰く、安石は富貴を輕んず。吝に非ざるなりと。對えて曰く、此の謂いに非ず。安石は有爲に勇にして改過に吝なりと。上之に頷く。
現代語訳
はじめて神宗にまみえた。天子は問うて言った。「卿と王安石とは、無位のころからの旧知である。安石はどうか」。答えて言った。「安石の学問と行いの筋目は揚雄に劣りません。しかし吝いのです。だから古人に及びません」。天子は言った。「安石は富貴を軽んじている。吝いのではない」。答えて言った。「そういう意味ではありません。安石は事をなすには勇ですが、過ちを改めることに吝いのです」。天子はこれにうなずいた。
解説
一つの言葉を、二段で使った答えです。まず「吝」とだけ言いました。天子は当然、財のことだと取ります。**安石は富貴を軽んじている。吝いのではない。**そこで意味を指し直しました。**安石は事をなすには勇ですが、過ちを改めることに吝いのです。**同じ人の中で、出し惜しみしないところと、出し惜しみするところが分かれている。惜しんでいるのは金ではなく、自分の判断でした。旧知だからこそ言える評です。
この章句が説くこと
卿と王安石とは布衣の旧なり安石は何如安石の文学行義は揚雄に減ぜず然れども吝なり安石は富貴を軽んず吝に非ざるなり安石は有為に勇にして改過に吝なり吝改過
関連する章句
-
『宋名臣言行録』後集巻五・吕誨神宗は天資節儉なり。老宮人の言を得るに因りて、祖宗の時の妃嬪公主の月俸甚だ微なるを知り、其の及ぶ可からざるを嘆ず。安石獨り曰く、陛下果たして能く財を理めば、天下を以て自ら奉ずと雖も可なりと。帝始めて青苗助役の法を主とするに意有り。安石の術は類ミ此くの如し。故に呂誨の彈章に曰く有り、外に朴野を示し、中に狡詐を懷くと。
-
『宋名臣言行録』後集巻六・王安石公讀書を好み、能く強記す。後進の投贄及び程試に美なる者有りと雖も、一讀過ぐれば輒ち誦を成して口に在り、終身忘れず。其の文を屬するに筆を動かすこと飛ぶが如し。初め意を措かざるが若く、文成りて見る者は皆其の精妙に服す。議論は髙奇、能く辨博を以て其の説を濟く。
-
『宋名臣言行録』後集巻七・司馬光公學士王珪・王安石と同じく對す。公言う、災を救い用を節するは宜しく貴近より始むべし。兩府の賜を辭するを聽す可しと。安石曰く、常衮賜饌を辭す。時議以爲えらく、衮は自ら能わざるを知る。當に位を辭すべく、當に禄を辭すべからずと。且つ國用の不足は當今の急務に非ざるなりと。公曰く、衮の禄を辭するは猶お禄を持して位を固むる者より賢れり。國用の不足は眞に急務なり。安石の言は是に非ずと。
-
『宋名臣言行録』後集巻六・王安石初め韓魏公揚州を知る。介甫新進士を以て僉書判官事たり。魏公其の學を重んずと雖も、吏事を以て之を許さず。介甫秩滿ちて去る。會ミ韓公に書を上る者有り、多く古字を用う。韓公笑いて僚屬に謂いて曰く、惜しいかな王廷評の此に在らざるは。其の人頗る難字を識ると。介甫聞きて以て己を輕んずと爲す。是に由りて之を怨む。
-
『宋名臣言行録』後集巻六・王安石神廟即位するに至り、春秋に富み天資人に絶す。書を讀めば一見して便ち大指を解す。是の時、兩蕃の服せざるを見、及び朝廷州縣の多く紓緩にして漢唐全盛の時に及ばざるを見て、毎に大臣と論議すれば怫然として悦ばざるの色有り。當時の執政從官の中に識有る者以謂えらく、方今の天下は正に大富家の如し。上下和睦し、田園開闢し、屋宇牢壯、財用充足す。但だ屋宇は設飾少なく、器用は精巧少なく、僕妾は樸魯遲鈍にして敢えて過を作さず。但だ鄰舍の來たりて相い凌侮する有らば、歳時に物を以て之に贈るを免れず。其の來ること已に久し。自家の做し得て此くの如きに非ずと。遂に敢えて上意を承當して法度を改革せず。
-
『宋名臣言行録』後集巻二・富弼公亳より汝に移り、南京を過ぐ。張安道留守なり。公來たりて見え、坐すること之を久しくす。公徐ろに曰く、人は固より知り難きなりと。安道曰く、王安石を謂うか。亦た豈に知り難き者ならんや。往年方平貢舉を知る。或るひと安石に文學有れば宜しく辟して以て考校せしむべしと薦む。姑く之に從う。安石既に來たり、一院の事皆之を紛更せんと欲す。方平其の人を惡み、檄して以て出だす。此れより未だ嘗て與に語らざるなりと。富公首を俯して愧色有り。蓋し公は素より荊公を喜ぶ。位を得て天下を亂すに至りて、方に其の奸を知るなり。