宋名臣言行録 / 前集巻九・孫甫
慶歴中上用杜衍范仲淹富弼韓琦任政事而以歐陽修蔡襄及甫等為諫官欲更張庶事致太平之功仲淹亦皆戮力自効欲報人主之知然好同惡異不能曠然無適莫甫嘗家居石介過之問介適何許來介言方過富公問富公何為介曰富公言滕宗諒守慶州用公使錢坐法杜公則欲致宗諒重法不然則衍不能在此范公則欲薄其罪曰不然則仲淹請去富公欲抵宗諒重法則懼違范公欲薄其罪則懼違杜公患是不知所決甫曰守道以為如何介曰介亦竊患之甫嘆曰法者人主之操柄今富公患重罪宗諒則違范公薄其罪則違杜公是不知有法而未嘗意在人主也守道平生好議論自謂正直亦安得此言乎
新字:慶歴中上用杜衍范仲淹富弼韓琦任政事而以欧陽修蔡襄及甫等為諫官欲更張庶事致太平之功仲淹亦皆戮力自効欲報人主之知然好同悪異不能曠然無適莫甫嘗家居石介過之問介適何許来介言方過富公問富公何為介曰富公言滕宗諒守慶州用公使銭坐法杜公則欲致宗諒重法不然則衍不能在此范公則欲薄其罪曰不然則仲淹請去富公欲抵宗諒重法則懼違范公欲薄其罪則懼違杜公患是不知所決甫曰守道以為如何介曰介亦竊患之甫嘆曰法者人主之操柄今富公患重罪宗諒則違范公薄其罪則違杜公是不知有法而未嘗意在人主也守道平生好議論自謂正直亦安得此言乎
書き下し
慶歴中、上、杜衍・范仲淹・富弼・韓琦を用いて政事に任ず。而して歐陽修・蔡襄及び甫等を以て諫官と爲す。庶事を更張して太平の功を致さんと欲す。仲淹も亦た皆な力を戮して自ら效し、人主の知に報いんと欲す。然れども同を好み異を惡み、曠然として適莫無き能わず。甫、嘗て家居す。石介、之を過ぐ。介に問う、適ま何許より來るやと。介言う、方に富公を過ぐと。富公、何を爲すかと問う。介曰く、富公言う、滕宗諒、慶州を守り、公使錢を用いて法に坐す。杜公は則ち宗諒を重法に致さんと欲す。然らずんば則ち衍、此に在る能わず。范公は則ち其の罪を薄くせんと欲して曰く、然らずんば則ち仲淹、去らんことを請うと。富公、宗諒を重法に抵てんと欲すれば則ち范公に違うを懼る。其の罪を薄くせんと欲すれば則ち杜公に違うを懼る。是を患いて決する所を知らずと。甫曰く、守道、以爲えらく何如と。介曰く、介も亦た竊かに之を患うと。甫嘆じて曰く、法は人主の操柄なり。今、富公、宗諒を重罪すれば則ち范公に違い、其の罪を薄くすれば則ち杜公に違うを患う。是れ法有るを知らずして、未だ嘗て人主に意在らざるなり。守道、平生、議論を好み、自ら正直と謂う。亦た安んぞ此の言を得んやと。
現代語訳
慶暦年間、帝は杜衍・范仲淹・富弼・韓琦を用いて政事に任じた。そして欧陽脩・蔡襄と孫甫らを諫官とした。あらゆる事を改めて太平の功を成そうとした。范仲淹らもみな力を合わせて自ら尽くし、君主の知遇に報いようとした。しかし同じ意見を好み異なる意見を憎んで、からりと好き嫌いを無くすことができなかった。孫甫がかつて家にいた。石介が立ち寄った。石介に尋ねた。「いまどこから来たのか」。石介は言った。「ちょうど富弼のところに寄ってきた」。「富弼は何をしていたか」と尋ねた。石介は言った。「富弼はこう言った。滕宗諒が慶州を守って、公用の金を使って法に問われた。杜衍はその者を重い法に当てようとしている。そうでなければ自分はここにいられない、と。范仲淹はその罪を軽くしようとして言った。そうでなければ自分は辞職を願い出る、と。富弼は、滕宗諒を重い法に当てようとすれば范仲淹に背くのが恐ろしい。罪を軽くしようとすれば杜衍に背くのが恐ろしい。それを憂えてどうしてよいか分からない、と」。孫甫は言った。「守道どのはどう思うか」。石介は言った。「私もひそかにそれを憂えている」。孫甫は嘆じて言った。「法は君主の握る柄である。いま富弼は、滕宗諒を重く罰すれば范仲淹に背き、罪を軽くすれば杜衍に背く、と憂えている。これは法があることを知らずに、いまだかつて君主に心が向いていないということだ。守道どのは生涯、議論を好んで、自分を正直だと言う。それでもどうしてこの言葉が出せるのか」。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
呂氏春秋・處方⑤今、人此に有り、擅に行いを矯めば則ち國家を免れしめ、輕重を利すれば則ち衡石の如く、方圜を為せば則ち規矩の若くす。此れ則ち工なり巧なり。而れども法るに足らず。法なる者は、衆の同じくする所なり。賢不肖の其の力を以うる所なり。謀の用う可からざるに出で、事同じくす可からざるに出づるは、此れ先王の舍つる所なり。
-
孫子・形篇善く兵を用うる者は、道を修めて法を保つ。故に能く勝敗の政を為す。
-
『宋名臣言行録』前集巻八・龎籍公常に曰く、凡そ大臣と為らば、尤も宜しく繩墨を祗畏すべし。豈に貴重を自恃して天子の法を亂すを得んやと。
-
『宋名臣言行録』前集巻一・范質質、制敕を奉行して未だ嘗て律を破らず。刺史・縣令を命ずる毎に、必ず戸口版籍を以て急と為す。
-
孫子・始計篇法とは、曲制・官道・主用なり。
-
『塩鉄論』刑德篇大夫曰く、令は民を教うる所以なり。法は奸を督する所以なり。令嚴にして民慎み、法設けられて奸禁ぜらる。罔疏なれば則ち獸失われ、法疏なれば則ち罪漏る。罪漏るれば則ち民放佚して輕々しく禁を犯す。故に禁必せざれば、怯夫も僥幸す。誅誠なれば、跖・蹻も犯さず。是を以て古者五刑を作り、肌膚を刻みて民は矩を踰えず。