宋名臣言行録 / 前集巻八・狄青
青在涇原嘗以寡當衆度必以竒勝預戒軍中盡捨弓弩皆執短兵宻令軍中聞鉦一聲則止再聲則嚴陣而陽却鉦聲止則大呼而突之士卒皆如其教纔遇敵未接戰遽聲鉦士卒皆止再聲皆却虜人大笑相謂曰孰謂狄天使勇時虜人謂青爲天使鉦聲止忽前突之虜兵大亂相蹂踐死者不可勝計
新字:青在涇原嘗以寡当衆度必以奇勝預戒軍中尽捨弓弩皆執短兵密令軍中聞鉦一声則止再声則厳陣而陽却鉦声止則大呼而突之士卒皆如其教纔遇敵未接戦遽声鉦士卒皆止再声皆却虜人大笑相謂曰孰謂狄天使勇時虜人謂青為天使鉦声止忽前突之虜兵大乱相蹂践死者不可勝計
書き下し
青、涇原に在り。嘗て寡を以て衆に當たる。度るに必ず竒を以て勝つべしと。預め軍中を戒め、盡く弓弩を捨てて皆な短兵を執らしむ。宻かに軍中に令す、鉦一聲を聞かば則ち止まり、再聲せば則ち陣を嚴にして陽りて却き、鉦聲止まば則ち大呼して之に突けと。士卒皆な其の教えの如くす。纔かに敵に遇い、未だ接戰せず。遽かに鉦を聲す。士卒皆な止まる。再び聲す。皆な却く。虜人大いに笑い、相い謂いて曰く、孰か狄天使を勇と謂うやと。鉦聲止む。忽ち前みて之に突く。虜兵大いに亂れ、相い蹂踐して死する者、勝げて計う可からず。
現代語訳
狄青が涇原にいた。あるとき少数で多数に当たった。必ず奇策で勝つべきだと見て取った。あらかじめ軍中に戒めて、弓と弩をすべて捨てさせ、みなに短い武器を持たせた。ひそかに軍中に令した。「鉦が一度鳴ったら止まれ。二度鳴ったら陣を固めて偽って退け。鉦の音が止んだら、大声を上げて突撃せよ」。兵はみなその教えのとおりにした。ようやく敵に遭い、まだ戦闘に入らなかった。すぐに鉦を鳴らした。兵はみな止まった。もう一度鳴らした。みな退いた。敵はひどく笑って言い合った。「誰が狄天使を勇猛だと言ったのか」。鉦の音が止んだ。たちまち前へ出て突撃した。敵の兵はひどく乱れ、互いに踏みつけ合って死んだ者が数えきれなかった。
解説
この章句が説くこと
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『智囊』制勝・狄青狄青、涇原に在り、常に寡を以て衆に当たる。密かに軍中に令す、「鉦一声を聞かば則ち止まれ。再声すれば則ち陣を厳にして陽り卻け。声止まば即ち大いに呼びて馳突せよ」と。士卒皆教えの如くす。才かに敵に遇い、未だ接せざるに、遽かに鉦を声らせば、士卒皆止まる。再声すれば再び卻く。虜大いに笑って曰く、「孰か狄天使は勇なりと謂うや」と。鉦声止みて、忽ち前みて之を突けば、虜兵大いに乱れ、相い蹂み多く死す。追奔すること数里、前に深澗に臨む。虜忽ち山隅に壅遏す。青遽かに鉦を鳴らして止む。虜は引き去るを得たり。時に将佐は追撃せざりしを悔ゆ。青曰く、「奔命の際、忽ち止まりて我を拒ぐは、安くんぞ謀に非ざるを知らんや。軍已に大いに勝てり。残寇は貪るに足らず」と。
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『宋名臣言行録』前集巻八・狄青時に智髙、還りて邕州を守る。青、崑崙闗の險阨、據らるる所と爲るを懼る。乃ち賔州に令を下し、其の五日の糧、士卒を休ましむ。賊の諜、備えを爲さずと知る。是の夜、大風雨あり。青、衆を率いて半夜の時、崑崙闗を度る。既に度りて喜びて曰く、賊、此を守るを知らず。爲す能う無きなり。彼、夜半風雨にて吾れ敢えて來らずと謂う。吾が來るは、其の不意に出づる所以なりと。巳に邕州に近づく。賊方に覺る。歸仁舖に逆戰す。青、髙きに登りて之を望む。賊、坡上に據る。我が軍之に薄る。禆將孫節、流矢に中りて死す。青、急に軍を麾きて進ましむ。人人皆な殊死して戰う。是より先、青、巳に蕃落の馬二千を縱ちて賊の後に出でしむ。是に至り前後合擊す。賊の標牌軍、馬軍の衝突する所と爲り、皆な駐まる能わず。軍士又た馬上の鐡連枷を縱ちて之を擊つ。遂に皆な披靡し、相い枕藉して死す。賊遂に大敗す。智髙、果たして城を焚きて遁れ去る。青、先に公亮と言う、軍制を立て賞罰を明らかにす、賊、見るを得可からず、標牌は騎兵に當たる能わずと。皆な料る所の如し。青、堂户の上に坐して兵を數千里の外に論ず。辭約にして慮明なり。古の名將と雖も、何を以て此に加えん。豈に特だ一時の武人の崛起する者ならんや。
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『宋名臣言行録』前集巻八・狄青行くに及び、衆を率いて日に一驛に過ぎず。至る所の州、輙ち士を休むること一日。潭州に至る。遂に行伍を立て約束を明らかにす。軍の行止、皆な行列を成す。鍤を荷い粮を裹み、守禦の備えを持するに至るまで、皆な區處有り。軍人の逆旅の菜一把を奪う者有り。之を斬りて以て狥う。是に於て一軍肅然として、敢えて聲氣を出だす無し。萬餘人行きて未だ嘗て聲を聞かず。青、毎に郵驛に止まる。四面、兵を嚴にす。門毎に皆な諸司使二人あり。人の妄りに出入するを得る無し。青に見えんことを求むる者は、即時に通ずるを得ざる無し。其の野宿は皆な營栅を成す。青の居る所、四面兵を陳ね、弓弩を彀くこと皆な數重。將いる所の精鋭、左右に列布して守衛甚だ嚴なり。青の未だ至らざるに方たり、諸將屢々敗れ屢々走る。皆な以て常と爲す。是に至り、桂州を知る陳某・英州を知る蘇緘、賊と戰いて復た敗走すること常の時の如し。青、賔州に至る。悉く陳と禆校凡そ三十二人を召し、其の罪を數えて軍法に按じて之を斬る。惟だ蘇緘のみ某の所に在り。械繫して上に聞せしむ。是に於て軍中、人人奮勵して死戰の心有り。
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『宋名臣言行録』前集巻八・狄青涇原を戍る日、嘗て虜と戰いて大いに勝つ。奔を追うこと數里。虜、忽ち山嵎に壅遏す。其の前に必ず險に遇わんことを知る。士卒皆な奮擊せんと欲す。青、遽かに鉦を鳴らして之を止む。虜、引き去るを得たり。其の處を驗するに、果たして深澗に臨む。將佐、擊たざるを悔ゆ。青獨り曰く、然らず。奔亡の虜、忽ち止まりて我を拒む。安んぞ謀に非ざるを知らん。軍已に大いに勝つ。殘冦、利するに足らず。之を得るも加重する所無し。萬一、其の術中に落ちなば、存亡知る可からず。寧ろ擊たざるを悔ゆとも、止まらざるを悔ゆ可からずと。
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『宋名臣言行録』前集巻八・狄青廣源州の蠻儂智髙、其の衆を以て叛く。南方の備え無きに乗じ、連ねて邕・賔等七州を破り、廣州に至る。至る所、吏民を殺し、縱掠す。東南大いに駭く。朝廷、驍將張忠・蔣偕を遣わし、驛を馳せて之を討たしむ。甫めて至れば則ち皆な摧䧟する所と為る。又た楊畋・孫沔・余靖を遣わして招撫せしむ。皆な久しくして功無し。仁宗之を憂う。遂に樞宻副使狄青を遣わして宣撫使と爲し、衆を率いて之を擊たしむ。翰林學士曽公亮、以て方畧を爲す所を問う。青、初め肯えて言わず。公亮固く之を問う。青廼ち曰く、比者、軍制立たず。又た廣州の敗より、賞罰明らかならざるのみ。今、當に軍制を立て賞罰を明らかにすべきのみ。然れども恐らくは賊、青の來るを見て、以謂えらく遣わす所の官重しと。勢い必ず之に見ゆるを得ざらん。公亮又た問う、賊の標牌、殆ど當たる可からず。如何と。青曰く、此れ易きのみ。標牌は歩兵なり。騎兵に當たれば則ち施す能わずと。
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『智囊』制勝・狄青青既に渡り、喜んで曰く、「賊は此を守るを知らず、為す能うこと無きなり」と。已に邕州に近づき、賊方に覚り、歸仁鋪に逆戦す。青、高きに登りて之を望むに、賊は坡上に拠る。我が軍之に薄り、青は歩卒をして前に居らしめ、騎兵を後に匿す。蛮は驍勇なる者をして前に当たらしめ、尽く長槍を執らしむ。前鋒の孫節、戦いて利あらず、死す。将士青を畏れ、敢えて退く莫し。青、高山に登り、五色の旗を執り、騎兵を麾いて左右の翼と為し、其の後に出でしめ、蛮軍を断ちて三と為し、旋りて之を撃つ。左なる者は右し、右なる者は左し、已にして右なる者は復た左し、左なる者は復た右し、賊は為す所を知らず。賊の標牌軍は、馬軍の衝突する所と為り、皆駐まる能わず。槍の立つこと束の如し。我が軍又馬を縦ちて鉄連枷を上げて之を撃ち、遂に皆披靡す。智高は城を焚きて遁去す。

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